今年で第41回目となる東京インターナショナルオーディオショウが、2024年7月26日〜28日の3日間、東京国際フォーラムにて開催されました。本年度も出展したヤマハは、HiFiオーディオ製品の発売を開始してから70周年を記念した特別オーディオ試聴プログラムを実施。本記事では、来場者の方々にヤマハHiFiオーディオ史の基点となった製品を試聴いただいたイベント当日の様子をお届けしていきます。
ヤマハHiFiオーディオの70年を伝える特別プログラム
会場にはヤマハHiFiオーディオのレガシー製品とともに、70年の歩みをまとめたパネルを展示しました。
1887年に楽器メーカーとして創業したヤマハが、はじめて「HiFi(=ハイフィデリティの略)」の名を冠したオーディオ製品を発売したのは1954年のことでした。最高級の楽器のような表現力を持つHiFiオーディオの製造を目指し、音楽の本質を表現することへの徹底したこだわりは、今年で70周年を迎えた現在もなお変わらずに引き継がれています。
そんなヤマハHiFiオーディオの70年の歩みを振り返るために、本年度の東京インターナショナルオーディオショウでは特別試聴プログラムを企画しました。ヤマハの浜松本社に保管されている、HiFiオーディオ史の基点となったレガシー製品を会場に持ち込み、実際に来場者のみなさまに体感いただく試聴環境をご用意しました。さらに、プログラム後半はフラッグシップ5000シリーズに試聴機器を変更し、レガシー製品と最新のHiFiオーディオとの違いを体感いただくことで、ヤマハHiFiオーディオの進化と変わらない精神を感じていただけるプログラムを構成しました。
当時の楽曲とともにHiFiサウンドの歩みを辿る
本プログラムでは、各製品の発売当時を想像しながらヤマハHiFiオーディオの変遷を体感いただくために、同時期に活躍したアーティストによるレコードを試聴いただきました。1曲目にご試聴いただいたのは、“ニューヨークのため息”と称される歌声を持つヘレン・メリルと、トランペットの名手であるクリフォード・ブラウンのコラボレーションアルバム「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」より「You’ll be so nice to come home to」。再生機材は、ヤマハHiFiオーディオの第一弾製品として1954年に発売されたHiFiレコードプレイヤーA-1型です。発売当時、その豊かな音と耐久性が広く評価され、家庭用オーディオとしてだけではなく放送局などでも活躍した製品でした。
(左)ヤマハにとってはじめての「HiFi」製品となった、1954年発売のHiFiプレイヤーのA-1型
スピーカーには、1967年に発売されたスピーカーシステムの第1号機『NS-20』を使用。現在ギターアンプなどで使われている前面・後面開放型のボックスが特徴であり、グランドピアノの響板が音を広げる原理を取り入れていることから、楽器メーカーならではの発想が活かされたスピーカーユニットだと言えます。「Natural Sound」を意味する「NS」の呼称はこの製品をきっかけに生まれたものであり、余計な色を加えない、自然な音にこだわるヤマハのオーディオ製品を表現する言葉として、現在にいたるまで使い続けています。
1967年に発売したスピーカーシステムの第1号機『NS-20」。1958年に開発された68×50センチのエレクトーン用大型平面ユニット『JA5002』をもとに開発されたモデルでした。
なお、プリアンプおよびパワーアンプは、それぞれ2018年に発売されたフラッグシップモデル『C-5000』『M-5000』を使用しました。
2曲目は、『NS-20』が販売された1960年代後半を象徴する楽曲として、1968年に発売されたジミ・ヘンドリックスの代表的なアルバム「Electric Ladyland」より「Crosstown Traffic」を試聴。ビートルズの成功によってサイケデリックスタイルが流行し、ギターヒーローの存在がクローズアップされた時代を象徴する1曲です。
続いて3曲目は、ジャズピアニストのビル・エヴァンスが1968年に発表したライブアルバム「Bill Evans at the Montreux Jazz Festival」のオープニングナンバー「One for Helen」。同アルバムは、1967年からスイスのモントルーにて毎年開催されているモントレー・ジャズフェスティバルの名前を世界的に広めた作品です。
4曲目からは、ヤマハHiFiオーディオを代表する型番である『2000シリーズ』が出揃った1980年代を体感いただくセットアップとして、ターンテーブルを2019年発売の『GT-5000』に変更。試聴いただいたのは、1985年にヤマハが独自に制作したデモンストレーションLP「Super Disc」から、日本を代表するベーシスト・鈴木勲が参加した「Perhaps」です。
(写真右)2019年発売のレコードプレーヤー『GT-5000』
同アルバムは、ヤマハが当時のキングレコードとともに企画した製品試聴用のディスクであり、非売品のためあまり知られていないレアな1枚です。すべてがオリジナル楽曲として制作され、A面では当時のフュージョンシーンをリードするアレンジャー、デイヴィッド・マシューズが率いるスーパーセッショングループを招き、ドラムスにスティーブ・ガット、ベースにマーカス・ミラー、ギターにラリー・カールトン、ホーンセクションにはデイビット・サンボーンとブレッカー兄弟が参加。さらにB面では、スウィング・ジャズの伝説的ビブラフォン奏者、ライオネル・ハンプトンと日本人ドラマーのジョージ川口の共演など、豪華なメンバーによるパフォーマンスが収録されています。
プログラムのラストには、スピーカーを『NS-5000』に入れ替え、プリアンプを『C-5000』、パワーアンプを『M-5000』に変更し、コントロールア現行のヤマハHiFiオーディオのフラッグシップとなる5000シリーズを体感いただきました。試聴楽曲は、優秀録音版として知られているジェニファー・ウォーンズのアルバム「The Hunter」から「Way Down Deep」です。
プログラムのラストは『NS-5000』のスピーカーをはじめ、フラッグシップ5000シリーズを試聴いただくセッティングに変更しました。
フラッグシップ5000シリーズは、微細な音情報を余すところなく引き出し、演奏者の想いをリスナーに届けることを目的として開発された製品群です。プログラムのラストに最新のヤマハハイファイサウンドを試聴いただいたことで、来場者の方々にはレガシー製品との比較をお楽しみいただけたのではないかと思います。
リスニングスタイルの多様化に対応したTRUE SOUNDへの挑戦
ヤマハは、オーディオ製品の開発を通して「TRUE SOUND」というコンセプトの実現を目指しています。「アーティストが込めた想いをあるがままに表現し、聴く人の感情を動かす音」を意味するこのコンセプトを、音色・ダイナミクス・サウンドイメージの3つの要素で、具体的な設計に落とし込んでいます。本イベントで展示したHiFiプレイヤーA-1型および『NS-20』は、国内のオーディオショウで音を鳴らすのははじめてでしたが、ヤマハの「TRUE SOUND」の系譜を今に伝えるレガシーともいえます。
これまで、ヤマハHiFiオーディオは、自然な音へのこだわりを貫きながら、時代の流れの中で変化してきたリスニングスタイルに対応したさまざまな製品開発を続けてきました。近年はCDよりも情報量の多いハイレゾファイルが普及し、情報量の多い楽曲を再生するためのスピーカーとアンプの開発が求められています。さらにはストリーミングで音楽を楽しむ方法が主流になりつつあり、ヤマハにおいてもステレオレシーバーのシリーズ『R-N』を展開し、ネットワークを介したリスニングスタイルに対応したHiFiオーディオ環境を提案しています。
一方で、若い世代を中心にアナログレコードの人気が復活してきており、ここ数年はアーティストがアナログで新譜をリリースすることも珍しくはありません。最新のレコードプレーヤーはCDと変わらないほどのノイズの低さを実現しているため、アナログの良さを感じながら、他のリスニングスタイルと同じようにHiFiでレコードを楽しむ方も増えてきています。
今後もヤマハは、多様化するリスニングスタイルに対応した製品群を取り揃えながら、「TRUE SOUND」へのこだわりを守り続けていきたいと考えています。今回開催した特別プログラムでは、オーディオの進化や変遷とともに、同時代のアーティストたちの楽曲を試聴いただきましたが、そこには常にアーティストの想いを届けるサウンドを実現してきた、ヤマハの変わらないこだわりが表れています。
本プログラムは、来場者の方々にヤマハHiFiオーディオの歩みを実際のサウンドで感じていただく機会となりましたが、同時にヤマハの開発チーム一同にとっても、あらためてヤマハサウンドの一貫性と進化を再認識する機会となりました。今後も時代の変化に寄り添いながら、「TRUE SOUND」へのこだわりを貫き続けるヤマハの挑戦は続きます。
写真:寺島由里佳 取材・文:堀合俊博(a small good publishing)