みなさま、こんにちは。コロナ禍でいろいろな思いを巡らせていた2021年でしたが、季節は「芸術の秋」になってまいりました。
さて今回は、フランスオルガン界の巨匠であるオルガニストのミシェル・ブヴァ―ルさんにインタビューをさせていただくことになりました。演奏家としてはもちろん、パリ国立高等音楽院の指導者としても長年ご活躍されており、現在、活躍している日本人のオルガニストの中でも先生の門下生が多くいらっしゃいます。
今秋に来日公演をされるミシェル・ブヴァ―ルさんのインタビューを是非ご覧ください。
Q1 今回の来日公演で楽しみにされていることは何でしょうか。
A1 実は2020年秋に妻と共に日本公演ツアーを予定していましたが、コロナ禍のため中止となり、各ホールと話し合いの結果、今年秋に延期となりました。14日間の厳しい隔離期間はありましたが、今年コンサートができることを本当に嬉しく思います。ただ残念ながら隔離期間の影響で、当初予定していた5回のコンサートのうち2回のコンサートをキャンセルせざるを得ませんでした。
今回私はフランス音楽を取り上げる3回のシリーズ公演(2021年、2022年、2023年)を任せていただいたいずみホール、そして数年前から招待を受けていた金沢(石川県音楽堂)と岐阜(サラマンカホール)での公演を開催させていただくこととしました。日本に再び来られたこと、そしていつも大変熱心な日本の聴衆の前で演奏できることは素晴らしく、とても幸せに思います。
Q2 日本には、多くのホールにコンサートを目的にした様々な製作者のオルガンがたくさんあり、多様な楽器とのコラボレーションや様々なジャンルの音楽も演奏されています。ヨーロッパではオルガンは教会に根付いて広がっていますが、日本のオルガン文化の可能性について、どう思われますか。
A2 ヨーロッパでも、私が1996年に同僚のウィリアム・ヤンセンと設立した「トゥールーズのオルガン」のような大規模なフェスティバルでは、教会にあるオルガンを他の楽器と組み合わせたり、詩やダンス、映画と組み合わせたりするなど、公演スタイルがますます多様化しています。また、トゥールーズには「Cité de l'Espace」(注:宇宙開発の研究の資料などを集めた資料館・美術館)という施設があり、オルガンコンサートで何度か共催したことがあります。このようなオルガンの多様な使い方は私にとっては一つのバリエーションです。
日本においても、オルガン単独でのオルガンの魅力を更に知ってもらうための文化活動は、とても重要です。確かに、ヨーロッパでは、人々はオルガンについて教会に強く結びついたものというイメージを強く持っています。一方、日本ではオルガンがコンサートホールに設置されることが多いため、それ自体が他の楽器と同様に一つの楽器であると考えられています。しかし、6世紀以上にもわたる素晴らしい多様なオルガン曲は、一般の音楽愛好家にはまだあまり知られていません。このため、素晴らしいオルガンを備えた日本のコンサートホールは、有能なオルガニスト達のアドバイスを得ながら、ドイツ、フランス、イタリアなどのヨーロッパの偉大なレパートリーを知ってもらうためにも、定期的なオルガンコンサートを開催することがとても重要であると考えます。これは未だ人々の耳に届いていない芸術と文化の源になるのです。
Q3 フランスのオルガン音楽の魅力について教えていただけますでしょうか。
また今回のコンサートの聞きどころなどあれば教えてください。
A3 フランスのオルガン音楽は、特に17世紀半ば以来フランス製のオルガン(楽器)と結びつき、特徴的な魅力を持っています。
具体的に言うとフランスでは、色彩豊かなフランス音楽に合った色彩の豊富なオルガンで17世紀以降、フランソワ クープランがレチタティーヴォ形式に使っていたコルネ(Cornet)、クロモルヌ(Cromorne )、ナザール(Nazard)の音色、また、プラン ジュー(Plein jeu)、グラン ジュー(Grand jeu)などの音色の響き、そして20世紀、メシアンに至るまで音色の混ざり合いは非常に独特な特徴があります。
一般的に言えば、ドイツのオルガン音楽の真髄はポリフォニー(多声音楽)の要素が強いのに対して、フランスのオルガン音楽の真髄は、何よりも「きらめく音が調和する色彩」を求めるものです。ガブリエル・フォーレやドビュッシー、ラヴェルの作品を思い起こしてみてください!
Q4 ヴェルサイユ王室宮殿首席オルガニストでもいらっしゃいますが、ヴェルサイユ宮殿のオルガンについて教えていただけますでしょうか。
また歴史的なオルガンを演奏するときに気を付けることなどありますでしょうか。
A4 ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂のオルガンはまさに伝統的なフランスのオルガンで、私が先に言及したフランスらしい音色(Plein-jeu, Cornet, tierces stop, Cromorne, など)をすべて備えています。19世紀に改造されたのですが、約30年前に偉大なフランスオルガンの製作者であるベルトランド・カティオーによって、クープランの時代のオルガンの姿に戻すべく手が加えられました。これは大変な作業でしたがとても成功しました。
これらの“歴史的”なオルガンを正しく演奏するためには、確かに特別な技術が必要です。古典的なオルガンは、当時のフランス音楽に合わせた特殊な非常に軽いタッチの構造になっています。Cromorneや Voix humaineの音色、Plein JeuやFond d'orgue、TrumpetやClaironなどリード管を加えていくGrand-jeuを正しく鳴らし、そして何よりも装飾音(トリル、モルデント、前打音など)を適切に弾くためには、これらの古典的なオルガンが実際の弾き方を教えてくれるわけで、このオルガンを用いての長時間にわたる練習が必要です。そうでなければ、オルガンは上手く鳴ってくれません。
ミシェル・ブヴァ―ルさん、この度は、ありがとうございました。
日本では、「オルガン イコール バッハ」のようなイメージを持たれがちで、フランスのオルガン音楽の魅力は必ずしも広く多くの方に知られていませんが、来年は、フランスの代表的なオルガニストで作曲家でもあるセザール・フランクの生誕200年を迎えます。ブヴァ―ルさんの公演を通じて、さらにフランスオルガン音楽に注目が集まるのではないかと思われます。
インタビューはいかがでしたでしょうか。
今後もバイカウントオルガン通信申込者の方々のオルガンライフにお役立ちとなる情報をお届けけしてまいりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
注)アルファベットで表記している箇所は、音色の名前やフランスのオルガン独特の音色の組み合わせの名称になります。
◎プロフィール:ミシェル・ブヴァール
パイプオルガン
ミシェル・ブヴァールは30年以上に渡り、演奏家及び教育者としてすばらしい経歴を築き上げてきた。フランスオルガン界の巨匠のひとりとして世界的に認められ、これまでに25か国以上で千回を超えるコンサートを行っている。2016年には、ヒューストンで開催されるアメリカン・ギルド・オブ・オルガニストの大会において数千人の参加者を前にオープニングリサイタルを行う。
最近ではクープランのオルガン作品の録音が再リリースされ、音楽雑誌『ディアパソン』が「なくてならない録音コレクションのひとつ」と称した。他にも多数録音を行っており、世界的に高い評価を得ている。
ミシェル・ブヴァールはL.ヴィエルヌに師事したオルガニストで作曲家のジャン・ブヴァールを祖父にもち、パリ国立高等音楽院で初期教育を受け、A.イゾワール、J.ボワイエ、F.シャプレ、M.シャピュイのもとで研鑽を積んだ。1983年、トゥールーズ国際オルガンコンクールで優勝し、演奏家としてのキャリアをスタートさせた。1985年には、X.ダラスの後任として、トゥールーズ地方音楽院のオルガン教授に就任。コンサート、マスタークラス、国際コンクールの開催を通して都市と地域との協働を推進した。その取り組みの成果として1996年にトゥールーズ・オルガン・フェスティバルが創設されたほか、同地方に数多く残されている歴史的オルガンについて学ぶ演奏家のためにトゥールーズ高等音楽・舞踊研究センターが設立された。
1995年、パリ国立高等音楽院のオルガン教授に就任し、世界中から集まる若手オルガニストの指導にあたっている。また、ロチェスター大学イーストマン音楽学校、イエール大学、東京藝術大学にも招かれている。
1996年、トゥールーズのサン・セルナン・バジリカ大聖堂の歴史的なカヴァイエ=コル・オルガンの正オルガニストに任命され、2010年からはヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂の4名の首席オルガニストのひとりとして名誉ある職務を任されている。
◎ミッシェル・ブヴァ―ル 来日公演情報
・大阪:いずみホール(11/5、11/6)
http://www.izumihall.jp/schedule/concert.html?cid=2387&y=2021&m=11
http://www.izumihall.jp/schedule/concert.html?cid=2371&y=2021&m=11
・金沢:石川県立音楽堂(11/9)
https://ongakudo.jp/event/4813
・岐阜:サラマンカホール(11/13)
コンサート:https://salamanca.gifu-fureai.jp/7562/
マスタークラス:https://salamanca.gifu-fureai.jp/8171/
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