人気YouTuberで、ピアニスト、作曲家のよみぃがコンサート「大よみぃ展~神業ピアニスト1日限りの挑戦~」を2024年2月2日(金)に行った。今度の舞台は東京・渋谷、LINE CUBE SHIBUYA。動画再生回数は10億回の大台を突破し、「TEPPEN」などテレビ番組での活躍も目立つよみぃだが、独特すぎる挑戦は止まらない。グランドピアノ1台というストイックな演奏会と思いきや、中盤にはゲームセンターでしか見ることのできない「太鼓の達人」のマシンも登場。よみぃが歩んできた道のりと、新たな可能性の期待も広がった独自性全開の一夜をレポートする。
東方、ルパン、ボカロ―― なじみのレパートリーからスタート
幕開けは東方Projectの楽曲「U.N.オーエンは彼女なのか?」。クラシック曲を思わせる荘厳な雰囲気と三連符のリズムを多用した出だしに胸をつかまれる。後のMCで「このジャンルの曲に出合わなければ僕はピアノを弾いてたんだろうか」と語るほど、よみぃにとっては思い入れが強いようだ。純粋なクラシック曲を表立って披露することはないよみぃだが、やはりベースにはクラシックがあると感じさせたし、ピアノ曲としても映える東方の楽曲の魅力も伝わった。
2曲目は、「TEPPEN」の決勝ステージでも披露した「ルパン三世のテーマ」。よみぃが幾度となく弾いてきた曲だが、盟友ジェイコブ・コーラーからの指南も反映されているというこのアレンジは、持てるスキルが存分に詰め込まれた「究極のルパン」と言っていいだろう。ルパンのメロディーはサックスなどのリード楽器向きで、音が減衰するピアノでは間が持たない。そこで、ピアノアレンジはいかにその間を埋めていくかがカギになる。ゆえに、大きく跳躍する左手でスケール感を出し、右手は高音部の細かいトリルできらめきをあらわすイントロから、とにかく忙しい。展開も多彩で、中間部のアドリブ的なフレーズ、高音を使ってテンポを緩めたバラード風パート、ジャジーなコードが頻出するパート、そして転調と、目まぐるしく変化する。一切の隙間を感じさせないこのアレンジを、ライブでは咀嚼しきれない聴衆も多いだろうから、ポイントを解説した動画を是非上げてほしいものだ。
3曲目、勇壮な「only my railgun」をテンポ良く刻んだ後、よみぃが「ペンライトを振ってもらえたら」と会場に要望。すると、客席のあちこちで光が点灯した。「いるじゃないですか!」とホッとしたような、よみい。どんな難曲も顔色一つ変えずに淡々と弾きこなすのが「よみぃ流」なのだが、広い会場にグランドピアノ1台というストイックな環境も手伝って、ファンもペンライトを出すタイミングを図りかねていたようだ。
きらめく光の応援も手伝って、古くからのレパートリーであるボーカロイド曲「六兆年と一夜物語」を楽しげに、弾むように披露する。特に、イントロの右手のトリルの粒立ちが美しく、楽曲の出だしにドライブ感をもたらしていく。ボカロ曲に特徴的なフレーズであるとともに、よみぃも得意とするところだろう。
黒歴史もエンタメに ゲーム機もステージに
続く「テラスミライ」は、ポップでリズミカルな楽曲。よみぃの動画をくまなくチェックしている人ならご存じだろう。高校生の時にコンペで落選した自作曲を、著名編曲家のアレンジによって蘇らせるという企画で披露された曲だ。こういう企画をてらいなく出来てしまう柔軟さがすごい。ピアニスト、作曲家として人気を確立しているプロが、いかに高校生の時とはいえどボツ曲を白日の下にさらし、他人に添削してもらうというのは、普通プライドが許さないものだろう。だが、よみぃはそんな“黒歴史”もエンタメにしてしまう。いや、ドキュメンタリーに、そしてドラマにしてしまう。
15歳で初めて応募した自作曲「D‘s Adventure Note」がいきなり「太鼓の達人」のコンペで入賞。そんな天才ぶりを示したよみぃだが、その後多くの不採用曲があったとは知らなかった。それが、他人の協力も得ながら復活する過程を見せられると、その曲自体がいとおしく思えてしまうから不思議だ。報われなかったけど、ようやく世に出てこれたんだね。最初は人が集まらなかったけれど足を止めてくれる人も増えて、そして今、渋谷の大きな舞台で演奏されているんだね――。音符の羅列に過ぎない楽曲が物語を与えられて、まるで人格を持つように育ち、躍動して共感を集めるのは、ボーカロイドに似ている。ボカロ隆盛の中で育ってきたよみぃは自然とその感覚を身に付けているのだろう。そして、「テラスミライ」の曲想――ジャンプして何かをつかみ取ろうとするような感じが、そんな物語にピッタリだった。そのあたりの構想や戦略も、よみぃの頭の中にあったのだろうと推察する。
楽曲コンペの流れも考えたのか、次なるパートは「太鼓の達人」だ。数々の大会で優勝経験を持つ19歳の天才「太鼓の達人」プレイヤー、はる~~んが登場し、よみぃのピアノと「太鼓の達人」プレイで「幽玄ノ乱」など3曲を生共演した。ロックの聖地とも呼ばれてきたこの会場で、「太鼓の達人」がステージに上がったのは初めてではないか。ましてや、リズムゲーム機が楽器の一つとして、ピアノとのコラボでコンサートにおいて披露されることも前代未聞ではないだろうか。これは、「太鼓の達人」を音楽家としての明確なバックグラウンドとして持つよみぃしか発想できないことだろう。
大観衆を前にしての本番にもかかわらず、はる~~んは3曲ともほぼ完璧なプレイを見せた。よみぃですら「スゲー!」「ウソやろ!」と驚きの嬌声を連発。この二人、太鼓の達人とピアノに淡々と向き合ってミスのない演奏を見せる姿が、外見上とても良く似ているように思えた。おそらく内面的な精神状態も共通しているのではないか。超高速の難曲演奏で求められる究極の集中力。二人とも同様の素質を備えているのか、それとも「太鼓の達人」というゲームによって鍛えられたのか。
ピアノの潜在力を引き出す挑戦 自動演奏ピアノ連弾
先天的か後天的かはともなく、よみぃの持つリズム感、集中力、緊張に打ち勝つ力は、以降のプログラムでもいかんなく発揮された。
一つは、よみぃオリジナルのボカロ曲の新曲「イキたいな」。ソロピアノが目立った当夜の楽曲の中では、ボカロ音源と生ピアノの共演は突出してゴージャスで、会場を沸かせた。ボカロが歌うメロディーとユニゾンするピアノは楽曲全体に生々しさを加える。また、ピアノソロ部分の躍動感は機械的なボカロの中だからこそ一層印象的に響く。この効果は、2年前の夏、Zeppツアーで披露したZONEの「secret base~君がくれたもの~」のボーカル音源に、ピアノの生演奏を重ねた試みに通じる。生ではない音源と共演することにより、聴き手の耳はピアノ演奏の方に集中し、その彩りや情熱、躍動感をより味わうことができる。それはもちろん、よみぃという突出したスキルと経験を持つ弾き手が、一定に刻まれる拍動の中で情感を表すという難題をクリアしてこそなのだが。
そして、いよいよ今公演のメインイベントであり、よみぃにとっても自らの独自性を発揮し、未知の領域を開拓し続ける分野として力を入れている自動演奏ピアノとの共演のパートが始まった。まず驚くのは、よみぃが今夜の公演ではこれまで普通のグランドピアノとして使っていたこの楽器が、自動演奏機能を内装したヤマハの「C3X-ENPRO」であったという事実。そりゃそうだろう、という言う向きもあるかもしれないが、自動演奏ピアノが登場してそれなりの歴史が刻まれているといっても、生で目にするといまだに新鮮な衝撃を伴って受け止めてしまうのが、多くの人に共通する反応ではないだろうか。しかも、ステージで通常のピアノとしてしか使われていなかったものが自動的に動き出すと、やはり驚いてしまう。そして、まさに自動演奏が発動されているピアノに、ピアニストが異なる音を刻むという行為自体が、実に不思議な光景として映ってしまう。機械によって完璧に制御されたプレイ中に、手を出して別の音を加えようとすることは、想像しただけで緊張感を覚える。同じ機械と共演する場合でも、別の楽器や外部音源から鳴っている音はまだしも、自分が演奏するピアノの鍵盤が上下するというのは、言葉を選ばずに言えば奇妙なことでもあるだろう。
そうした、まだまだ見慣れず一般的になっていないチャレンジの最前線にいて突進し続けるのが、よみぃなのだ。当夜は「新東方メドレー」「Aphelion」「An Invention」の3曲を演奏したが、やはり1台の自動演奏ピアノと人間が連弾することの可能性は非常に大きいと感じ入ったし、よみぃが新たなテクノロジーに臆せず対応するパーソナリティーやスキルを持ち合わせているからこそ可能なパフォーマンスだと思い知った。
約10曲をメドレーした「新東方メドレー」は、人間の動きに合わせてくれるわけでも、待ってくれるわけでもない自動演奏ピアノとの連弾で、難曲ぞろいの東方曲をほぼ途切れなく弾き続けてみせた。完璧を求められる緊張感や、楽曲ごとの切り替えの難しさをクリアしつつ、集中力も体力も切らさず8分近く続ける。驚くほかない。
バッハを思わせる「An Invention」は、Zeppでの自動演奏ピアノ連弾でも披露済みだったが、新曲「Aphelion」はさらに驚きの技術や作曲の創意が詰め込まれていた。特に、中盤を過ぎてからのあたりの音がぶつかる不協和音めいたパートは激しく鍵盤をたたき付け、これまでのよみぃの楽曲には見られなかった新機軸と言える。よみぃ曰くEDMのダブステップ的なリズムをピアノで表現しているという。また、この曲全体を通して「自動演奏ピアノと人間の連弾ということで、普通人間同士の連弾では腕がぶつかってしまい、演奏ができないようなメロディーの掛け合いなどを多く入れ込みました」とも解説してくれた。
そう、よみぃがこれまでに発表している自動演奏ピアノ連弾曲は、既存の連弾曲では不可能だった音の重なりを意識していて、今までにない新たなピアノの響きを開拓しているといっても過言ではない。音の重なりという意味では、2台連弾ならば同様のフレーズを弾くことができるかもしれない。ただ、1台のピアノから様々な音域の鍵盤が同時に鳴り、一つの響板を揺らし合うことによる波動というのは、おそらく2台の場合とは異なるだろう。そして、これまでになかった倍音の響き合いで、かつてない“共鳴感”がもたらされ、1台のピアノから未知のパワーが引き出されている気がした。
これまでに発表された自動演奏ピアノオリジナル曲「An Invention」と「Aphelion」。このタイトルには、AI合奏システム、いわゆるAIピアノとの連弾を想定しながら作っているため、AやIの文字を入れ込んでいるという。人間の持つ手指の構造上、運指的にこれまでは不可能だったフレーズも演奏することができ、AIのテクノロジーも加われば、ピアノ演奏の概念は大きく変わるだろう。
文:仁川清
写真:上飯坂一
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よみぃ プロフィール
作曲家・ピアニスト・ユーチューバー
1997年札幌市出身、東京在住のピアニスト、作曲家、演奏系YouTuber。 自身の2つのYouTubeチャンネル登録数合計は240万人を超え、動画再生回数の合計は7億回を超える。2021年には全国22か所におけるホールコンサートツアーを実施。最近ではTBSのバラエティー番組『神業チャレンジ』で目隠しピアノにチャレンジし、見事成功! YAMAHA AI合奏システム・アドバイザーとしても活躍している、新世代のマルチプレイヤー。
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