動画再生回数8億回を突破する人気YouTuberで、ピアニスト、作曲家のよみぃが初のZeppツアーを行った。2022年7月18日(月・祝)のZepp Haneda公演には、2,000人を超すファンが集結。ヤマハのAIピアノや自動演奏ピアノを駆使した演奏、ボーカル音源との共演など野心的な試みが満載で、ピアノのソロコンサートに新たな可能性を示した。
「カラオケ」ならぬ「カラボカ」?ピアノの概念の更新
よみぃという音楽家は、ピアノという楽器の概念や、ピアノのリサイタルというものの形式やイメージを一新させようとしているのだろう。この日は、これまでのピアノのソロコンサートではありえなかった斬新な手法や演出ばかりを盛り込んだ独創的なスタイルで、新たなピアノエンターテインメントの形を示した。司会をのぞけば、ステージには彼1人。当然、ピアノ独奏ではあるのだが、ある場面ではいずれもヤマハのAIピアノや、自動演奏機能を搭載したアコースティックピアノDisklavier™(ディスクラビア)という「機械との合奏」と呼べるものもあり、独奏公演と呼んでよいのかは難しいところもある。しかし、最新テクノロジーを用いて考え得ることを率先してやってしまおうという発想やチャレンジ精神は、完全に独走状態だといえよう。
まずライブは、形からピアニストらしくなくスタート。会場入りする様子がスクリーンに映し出されるオープニングは、ポップスのアーティストやロックバンドなどに用いられる今どきの手法である。また、最初の曲「紅」の演奏が始まるとファンがペンライトで会場を赤一色に染めた。もっとも、続いて披露した「ルパン三世のテーマ」「リベルタンゴ」を含め序盤3曲の独奏は、よみぃがこれまでストリートピアノやYouTubeなどで披露してきた定番というべきもので、ご挨拶代わりと言ったところだろう。
早くも前例がないであろうパフォーマンスが披露されたのは4曲目だ。「歌モノをやっていこうと思います」と、よみぃが語った試みは、ZONEの「secret base~君がくれたもの」のボーカル音源に、ピアノの生演奏を重ねるというもの。よみぃは「僕がカラオケになろうと思います」と言ったが、これは通常のカラオケとは真逆の発想で、この場合はカラボカ(ボーカル)というべきだろう。ピアニストは歌手との関係においては、あくまでも伴奏者に過ぎないのだが、この形式だと聴き手の耳はピアノ演奏の方に集中し、主客転倒となる。実際、よみぃの演奏は、最初は控えめな音数で始まったが、サビでは歌とハモるフレーズを入れて彩りを増していく。改めてこうした形で聴くと、1人では単旋律しか奏でることのできない歌声に比べると、ピアノの表現の自由さは圧倒的で、フレーズの選択肢は無限にあることが分かる。この試みは、ピアノ愛好者に新たな楽しみをもたらすことになるだろうし、今後、ピアノのための「カラボカ音源」というのが、どんどん世に出ていくかもしれない。
AIピアノと大爆奏!開発者、前澤さんも人気!?
続いては、幼少期からの音楽の思い出を写真とともに振り返るという、よみぃファンにはうれしい企画。小学校の時、普通は片手だけで弾く鍵盤ハーモニカを“よみぃ少年”は両手で弾いたり、ピアノの発表会ではカメラ目線で写真に写ったりするなど、現在につながる余裕ぶりが紹介された。過去の自分の演奏と合奏をするという試みでは、「当時テンポが揺れたりしているので、スクリーンを見ながら演奏しました」と、工夫を語っていた。また、今年2度にわたってテレビ番組で行われ、見事よみぃが100万円を獲得した神業チャレンジの再現も催され、「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「廻廻奇譚」などが披露された。さらには、DJスタイルで⾃作トラックをプレイする企画も。ボーカロイド曲なども含めた多彩な楽曲が披露され、観客はペンライトや手拍子、ウェーブなどで盛り上がっていた。作曲家よみぃとしての一面がクローズアップされたパートだった。
そして、いよいよ、この日のメインイベントというべきパフォーマンス。AIピアノとの合奏だ。よみぃが弾いた電子ピアノの演奏をAIが解析して、自動演奏ピアノが動くという仕組みだ。ここでは、AIピアノの生みの親、ヤマハの前澤陽氏も登場。会場から送られた温かい拍手からは、よみぃチャンネルにたびたび登場している前澤氏の知名度や人気の高さもうかがえた。楽曲は「トルコ行進曲」など3曲が披露されたが、特にAIのすごさが示されたのは、よみぃが「AIが人間の動きが見ていることが分かりやすい曲を」と言って紹介した「人生のメリーゴーランド」だ。この曲では、よみぃが歩くようなテンポの3拍子で弾くと、AIもそれに合わせた演奏で彩りをつけて始まったが、途中でよみぃが演奏を休止。数秒後に演奏を再開したよみぃは、鍵盤の高い位置に移動して転調し、なおかつ4拍子にしてテンポを速めるという複数の仕掛けを施すのだが、AIは全く乱れることなくついていった。演奏後、AIピアノに向かって拍手をするよみぃの姿も印象的だった。最後の「千本桜」では、よみぃが左手でAIピアノの方の鍵盤をたたくプレイを見せた。コンサート終了後、よみぃにその場面の真意を尋ねると、そのパートは、AIがよみぃの右手の動きだけを読み取って演奏する部分だったので即興的に遊びを入れてみたのだという。
ベートーベン以来?よみぃと自動演奏ピアノの革新
最後は、自動演奏機能付きピアノのディスクラビアとの合奏だ。演奏を聴く前までは、この順番は意外だった。片や、ここ数年で急速に発展したAIピアノ。一方、自動演奏ピアノはヤマハが1982年から実用化している。トリにふさわしいのはAIでは、と思ったのだ。しかし、ピアニスト、そして作曲家としてのスキルが試されるのは後者の方だった。よみぃの演奏を勝手に読み取ってくれるAIピアノより、よみぃの方が合わせる必要がある自動演奏ピアノの方が難易度は高いし、さらに同じ鍵盤を使うため、沈んでいる鍵盤は叩けないし、また沈んだ鍵盤が戻ってくるのを待たねばならないという困難さも伴うからだ。
3曲披露した中で、最後に披露した「東方メドレー」はテンポが次々変わる自動演奏に合わせたり、激しく浮き沈みを繰り返す自動演奏の鍵盤をかいくぐったりする圧倒的な技術が光った。だが、会場からこの日最も長い拍手が送られていたように思われたのは2曲目のオリジナル曲だった。バッハを思わせる曲想だったが、これには音楽の父もびっくりだろう。よみぃいわく、自動演奏ピアノ用の作曲や編曲は、2名による一台のピアノでの4手連弾では腕の交差の都合上、再現できないフレーズを重視しているという。もちろん、1人でも少しのミスタッチやテンポの遅れが命取りになってしまうギリギリに攻めたアレンジだ。よみぃの両手の内外だけでなく、5本の指の間の鍵盤も自動的に動いているさまは、何とも不思議な光景だ。
ピアノの鍵盤の数が当初の50~60鍵から、現在の88鍵になったのは1890年代のことという。そこから約130年は変化がないのだが、ここに来てようやくヤマハの技術とよみぃという自由な発想のピアニスト・作曲家が手を組み、革新をもたらそうとしている。19世紀後半の鍵盤数の拡大に影響を及ぼしたのは、それまでの鍵盤を隅からから隅まで使おうと作曲したベートーベンと言われる。「頭で鳴っているけど、指が足りない。その余白を埋めるのが自動演奏ピアノ」と語る作曲家・よみぃは、令和のベートーベンなのかもしれない。
文:仁川清
写真: 曽我美芽
よみぃ プロフィール
作曲家・ピアニスト・ユーチューバー
1997年札幌市出身、東京在住のピアニスト、作曲家、演奏系YouTuber。 自身の2つのYouTubeチャンネル登録数合計は240万人を超え、動画再生回数の合計は7億回を超える。2021年には全国22か所におけるホールコンサートツアーを実施。最近ではTBSのバラエティー番組『神業チャレンジ』で目隠しピアノにチャレンジし、見事成功! YAMAHA AI合奏システム・アドバイザーとしても活躍している、新世代のマルチプレイヤー。
よみぃオフィシャルHP
・ツアー概要
よみぃ Zepp Tour 2022 ~AIよみぃも大爆奏?!~
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