ゲーマー憧れの秘密基地!東京ゲームショウ特別仕様の防音室はどうやってできた?

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2023年9月、幕張メッセにて日本最大級のゲームイベント「東京ゲームショウ2023」が開催されました。この東京ゲームショウに出展されたヤマハブースでは、防音室の「アビテックス セフィーネNS カスタムベースモデル」(2.5畳)を、特別仕様にて展示。来場者は没入感ある空間で、新たな感覚でのゲームプレイを体験することができました。

今回は、東京ゲームショウ特別仕様の防音室展示に携わった担当者に、その裏側についてインタビュー。ゲーマーが憧れる秘密基地のような空間が、いったいどのようにしてつくられたのか。防音室内外のこだわりのデザインや、ヤマハの音響機器によるサラウンド環境について聞きました。

特別仕様の防音室、テーマは“ゲームを楽しむ秘密基地”

――まず最初に、ヤマハの防音室「アビテックス」への携わり方を含め、お二人の自己紹介をお願いします。

大山:ヤマハミュージックジャパンの鍵盤営業部アビテックス企画営業課に所属しています。大山和菜と申します。国内での「アビテックス」の卸営業を主務として、イベントや販促関連の企画などにも携わっています。

青山:青山将士と申します。私は浜松にあるヤマハ本社に務めており、ピアノ事業部ピアノマーケティング&セールスグループに所属しています。防音室をはじめとした、音環境に関する商品企画を担当しております。

――東京ゲームショウで展示された特別仕様の防音室のテーマについて教えてください。

大山:テーマは、“ゲームを楽しむ秘密基地”です。防音室内は、コックピットのような空間をイメージしてカスタムし、さらにヤマハの製品によるサラウンド体験ができる環境をつくりました。

――そうしたテーマに決まった背景を教えていただけますか?

大山:今回展示した「アビテックス セフィーネNS カスタムベースモデル」は、2022年12月に、ゲーム配信やDTMなど、楽器以外の用途を想定して発売された製品です。楽器店などでは展示していますが、コロナの影響で大型の展示会でお披露目する機会が少なかったので、これを機にたくさんの方に見ていただきたいという思いがありました。

この製品は「カスタムベースモデル」という名前の通り、自分好みにカスタムできることが特徴です。そのため、東京ゲームショウ限定での特別展示として、防音室の内装や外装のカスタムにできる限りチャレンジして、その良さをお見せしようと考えました。

さらに、さまざまなチームがこのプロジェクトに関わっていますので、音響システムを含め、オールヤマハの体制で新しいゲーミング空間をつくることにチャレンジしたいという背景もありました。

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細部にまでこだわってデザインされた内装と外装

――特別仕様の防音室の内装や外装は、どのようにデザインしていったのでしょうか?

青山:特別仕様のデザインは、ヤマハデザイン研究所のプロダクトデザイングループが手掛けました。ヤマハの楽器をはじめ、さまざまな製品のデザインをしているグループです。関係者のあいだで、ヤマハブース全体のコンセプトや防音室で表現したい世界観を共有して、何度も協議を重ねて今回のデザインになりました。

――まずは外装のこだわりから、くわしく教えてください。

青山:外装については、ヤマハブース全体のコンセプトに合わせて、スチームパンクのテイストをイメージした仕上げを行いました。銅が錆びたような色合いで、部分的にメタリックなヘアライン仕上げのシートを使い、メカメカしさを表現しています。

大山:今回ヤマハブースでは、アニメ『NieR:Automata Ver 1.1a』とコラボレーションしたゲームストリーミングミキサー「ZG01」のお披露目も行っていました。そのため、『NieR:Automata Ver1.1a』の世界観とも親和性がある外装デザインにしたという背景もあります。

――続いて、内装のこだわりについても教えてください。

青山:内装については、外装とはまた少し違ったイメージで、テープLEDを使い、スペーシーで未来感があるデザインにしました。さらに、机と棚の配置によって、コックピットのような空間に仕立てています。

また、防音室内の音の響きを調整する調音部材は、あえてヤマハのものを使わず、市販されている製品を使用しました。これには「カスタムベースモデル」ならではの、カスタムできる幅の広さを表現したいという狙いがありました。

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もとのシンプルな白のデザインからイメージを一新した、特別仕様の外観

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東京ゲームショウのためにこだわったカスタムで、非日常的な空間に演出された防音室内

臨場感あるサラウンド環境で、ゲームに没入できる空間に

――特別仕様の防音室では、どのようなゲームを体験できたのでしょうか?

大山:メカアクションゲームの『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』を採用しました。機体を操作するゲーム性は、今回テーマとしたコックピットのような空間と親和性が高く、派手なアクションを臨場感あるサウンドで楽しめるという相性の良さがあったと思います。

――防音室内に設けられたサラウンド環境について教えてください。

青山:ヤマハのスピーカー「MSP3A」とサブウーファー「HS8S」を使い、音が混じり合わないように、しっかりと明瞭度よく耳に届くような音場設計をしました。そして、AVアンプには、自動的に音場を整えるAI機能が特徴の「RX-A4A」を使っています。

AVアンプは本来、映画を観るための5.1チャンネルなどで使われることが多いですが、今回はセンタースピーカーを省いた4.1チャンネルで音場をつくりました。理由としては、5.1チャンネルのセンタースピーカーは、映画であれば主にセリフの音声を担いますが、ゲームのセリフはステレオ(フロント2ch)に割り当てられ、センタースピーカーは使われにくいためです。

また、ゲーム環境としては、センタースピーカーを配置すると邪魔になってしまう可能性があるため、それを考慮して実際のお部屋でも再現しやすい構成にしました。

――ヘッドセットだけでなく、サラウンド環境でもゲームを楽しんでほしいという狙いがあったのでしょうか?

青山:そうですね。ゲームをプレイする環境としては、やはりヘッドセットが主流なのですが、我々としては空気を伝達してくる音を体で感じながら、ゲームを楽しんでみていただきたいなと。そういったところでゲームの世界観への没入感を、もっと出せるのではないかと考えています。

こうした環境でゲームをプレイすると、臨場感があって没入できる空間になることを、いろいろと実験してきましたので、ぜひそれを多くの方に体験していただきたいという思いがありました。実際に今回、あまり広くない防音室の空間であっても、マルチチャンネルで迫力のある音が再生できることがわかり、我々としても非常に良い環境がつくれたと感じています。

多くのゲーマーの声を反映した「カスタムベースモデル」

――今回展示された「カスタムベースモデル」は、従来の商品とはどのような違いがありますか?

大山:防音性能は楽器向けにつくられた従来の防音室と変わらず、そのうえで大きな違いが2つあります。まず1つの特徴は、音の響きを調整する音場パネルが付属していないことです。

従来の商品は楽器向けなので、バランスの良い音の響きをつくれるように、防音室内の壁面にヤマハの音場パネルがあらかじめ取り付けられています。ですが、ゲーム配信などの用途で使われる場合、自分で音の響きを調整したい、もともと持っている吸音材を使いたいという方もいらっしゃいます。

それから、壁面に音場パネルがあると、机の置き方によっては数センチですが隙間ができてしまうので、それをなくして机をぴったり奥まで置きたいなどですね。そういったさまざまな要望にお応えするために、お客様自身で防音室内の音の響きやデザインを、文字通りカスタムできるようになっています。

2つ目の特徴は、機材配線用の通線穴を設けていること。防音室内でゲームをされる場合、無線LANではなく有線LANでつなぎたいという方が多いので、そういったニーズに対応できるようになっています。ヤマハブースでは、この配線穴を活かして、防音室内の様子を外のモニターでライブ中継していました。

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防音室内の様子をリアルタイムに映した、ヤマハブースのモニター

――ヤマハの防音室は、もともと楽器の用途がメインだったと思いますが、いつごろからゲーマーの方に向けた展開も意識され始めたのでしょうか?

大山:もともとは「歌ってみた」で活動されている歌い手さんなどが、「アビテックス」を使ってくださっていた背景がありました。歌だけであれば、従来の用途とあまり変わらないのですが、歌い手さんのなかにはゲーム配信もされる方が多くいらっしゃいます。そうした方々が我々の知らないあいだに、ストリーマー仲間同士の口コミで「アビテックス」を広めてくださっていたようです。

その後、コロナ禍に入ったことでゲーム配信を見る方が大きく増え、我々もそうしたニーズに注目するようになりました。そして、2021年夏ごろに、ストリーマーの関優太さんの防音室を取材させていただいたり、SPYGEAさんに弊社の防音室ショールームを体験いただいたりしました。その時期から、ヤマハの防音室とゲーム、特にゲーム配信の領域との関わりが深くなったと認識しています。

――そうしたゲーマーの方々のニーズを踏まえた、「カスタムベースモデル」の企画時のエピソードがあれば教えてください。

青山:「カスタムベースモデル」の企画段階では、数百人規模でゲーマーやストリーマーの方々にインタビューして、どういった仕様がいいのかを練ってきました。皆さんのお困りごとで一番多かったのは、音の響きに関するところ。ゲーム配信では、音が響きすぎるとエコーがマイクに入ってしまうので、響きを抑えたいという要望が多かったんです。

ヤマハの音場パネルは、もともと楽器をメインとする設計のため、防音室のなかで楽器を演奏するのが楽しくなるような、音を自然に響かせる工夫がされています。そのため、楽器以外の用途で使われるお客様が、ご自身で音の響きを整えられるモデルを展開しようと考えました。

思い切り楽しめる防音室の空間で、新たなゲーム体験を

――実際にヤマハブースで防音室を体験された来場者の方からは、どのような反応がありましたか?

大山:防音室を初めて体験する方が多いので、防音性能の高さに対するコメントをたくさんいただきました。東京ゲームショウは会場の特性上、かなり周囲がざわざわしていますが、防音室内に入るととても静かな空間になります。複数名で来場されている方には、友人の方が防音室のなかで大声で叫んでも外では全然聞こえないなど、そういった形で防音性能を体感いただいていました。

実際にゲーム配信をされている方からは、アンケートの回答で「活動を続けていくうえで、やはり防音室が必要だと感じた」といった声もいただきました。防音性能だけでなく、我々が目指していた臨場感あるゲームプレイの体験に対しても、好意的なご意見を多くいただくことができました。

また、昨年のヤマハブースでは、関優太さんの配信部屋を再現した防音室を展示しており、2年続けて見ていただいた方もいらっしゃいました。「アビテックス」はもともと白いシンプルなデザインなので、昨年もご覧になった方からは、「今までのイメージと違うデザインでカッコよかった」という声もありましたね。

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多くの来場者が特別仕様の防音室を体験した、ヤマハブースの様子

――それでは最後に、防音室の導入に興味を持つゲーマーの方に向けてメッセージをお願いします。

青山:今回、東京ゲームショウで多くの方に体験していただきましたが、私自身も防音室内のサラウンド環境でゲームをプレイしてみて、ヘッドセットでは得られない感動を体感できました。これは1つの新しい価値になると感じていますので、より多くの方にぜひこうした空気感でのゲームを体感していただきたいなと思います。

大山:こうした臨場感ある音の空間でゲームを楽しむことは、ゲームの魅力をより一層味わうために価値のあることだと思いますので、ぜひご興味を持っていただけると嬉しいです。

また、ゲームは自分1人で没入する楽しみ方もありますが、友人の方と一緒にボイスチャットで話しながら、配信であれば世界中の方とつながりながら楽しめることも魅力だと思います。

そうしたなかで、家族や近隣に気兼ねなく、大きな声を出して体全体で楽しむためには、やはり防音が必要になってきます。ゲームを思い切り、より楽しむお手伝いができる製品ですので、ご興味を持っていただいた方は、楽器店でぜひ一度体験いただければと思います。

――青山さん、大山さん、ありがとうございました!

文:綾本ゆかり

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