「響け!ユーフォニアム」とアンサンブルの魅力

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2023年8月4日、4年ぶりのシリーズ最新作『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』が劇場で上映される。2015年以来、吹奏楽を通して部活動に励む高校生たちの青春が描かれ、絶大な人気を誇ってきた同シリーズ。毎年夏に行われるコンクールを軸に物語を繰り広げてきたが、最新作では少人数で演奏する「アンサンブル」のコンテストへの出場がテーマとなる。

今回は『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』への期待を膨らませつつ、これまでのシリーズのあらすじや、ヤマハの使用楽器を紹介。そして、「響け!ユーフォニアム」シリーズ第1期でカリスマ的なトランペットの実力を持つキャラクター高坂麗奈の演奏を担当した上田じんさんにインタビュー。1期収録当時のエピソードや、トランペットとの出会い、そしてアンサンブルの魅力などを伺った。

吹奏楽を通した青春ストーリーが広がる『響け!ユーフォニアム』

ここで、『響け!ユーフォニアム』についておさらいしておきたい。主人公は、黄前久美子。小学生の時に姉の影響でユーフォニアムを始め、中学時代に吹奏楽部に入部するも、最後のコンクールではいわゆる「ダメ金」(金賞であるものの次の大会には進めないこと)で終わってしまう。周囲に流されるまま入部した弱小の北宇治高校吹奏楽部で、いかにコンクール全国大会を目指すのか。胸の奥をくすぐるような、どこか懐かしいような、宝のような青春ドラマが繰り広げられていく。

絵のトーンやストーリーの展開は穏やかであり、あからさまな悪役がいるわけでもない。それなのに、一人ひとりのキャラクターに感情移入したり、応援したりしてしまう。うまく演奏できない悔しさを噛み締めたり、先輩や後輩と関係を築く難しさを痛感したりと、一つひとつのエピソードを通して胸を打たれる。

これまでは、コンクールを通して全国大会に進んでいく様子がメインに描かれてきた。最新作では、これまで描かれていた全体合奏ではなく、指揮者のいない少人数演奏の「アンサンブル」がテーマになる。ここからまた、どんな物語が繰り広げられるのかに期待したい。

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『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』は、2023年8月4日に公開

 

作中では実際にヤマハの楽器が描かれている

登場するキャラクターたちは、実際にヤマハの楽器を使用。例えば、主人公の久美子が使用しているユーフォニアムはYEP-621。太くふくよかな低音域が特徴だ。

久美子の中学からの同級生であり、トランペットを通して「特別な存在になりたい」と願う高坂麗奈は、YTR-6310Zを使用。ジャズの名手ボビー・シューのアドバイスを基に開発されたプロモデルだが、表現力の豊かさから吹奏楽にもマッチしている。
※YTR-6310Zは生産完了モデル(2019年生産終了)

ほかにも、チューバの加藤葉月はYBB-641II、久美子の幼馴染でありトロンボーンの塚本秀一はYSL-882、今回フィーチャーされることとなるマリンバの釜屋つばめはYM-5100Aを使用。一人ひとりのキャラクターのそばに、いつもヤマハの楽器がある。楽器と一心同体になるからこそ、キャラクターの人間性や演奏が光るのだ。

「圧倒的な演奏」をオーダーされて……高坂麗奈の演奏を担当した上田じんさん

続いては、第1期の高坂麗奈の演奏の一部を担当した上田じんさんにインタビュー。北宇治高校吹奏楽部のキャラクターと同じく、京都で中学・高校と過ごした上田さん。レコーディング現場の裏側にはじまり、トランペットやアンサンブルの魅力について語っていただいた。

上田じんさん上田じんさん
京都市立堀川高等学校音楽科分校、東京藝術大学音楽学部、ワイマール・フランツリスト音楽院を卒業。第69回日本音楽コンクールトランペット部門第一位、併せて松下賞受賞。現在、シエナ・ウインド・オーケストラ契約団員、金管五重奏団「Buzz Five」リーダー、東京トランペットカルテット、京都トランペットグループサマーブリーズ各メンバー、名古屋音楽大学准教授。

 

――高坂麗奈の演奏をレコーディングする際、事前に制作側からオーダーはあったのでしょうか?

麗奈は高校生ですが、「その年齢に見合わないくらいの圧倒的な演奏が欲しい」というオーダーがありました。

トランペット奏者には、オーケストラ奏者からスタジオミュージシャン、それ以外にもさまざまなジャンル演奏者がいます。でも、いろんなジャンルのプロがいるからこそ、高校生だけど圧倒的な演奏をする麗奈の音にどんなトランペットが合うか、すごく迷われたんだと思います。そんな中で、僕に白羽の矢が立ったのは全く偶然、突然の出来事でした。

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上田じんさんが収録したのは、高坂麗奈の演奏。高校生ながら実力があり、クールな人柄と裏腹に音楽に対する情熱は人一倍ある。

――現場では、どのようにレコーディングが行われたのでしょうか。

まずは「上田さん、圧倒的な演奏をお願いします!」と言われて(笑)。その日吹いたのは、『三日月の舞』のトランペットソロ。音程が高く難しいのですが、無我夢中で「こういう感じで吹けばいいのかな」と演奏したのを覚えています。

他にも、主人公たちが入学してすぐに参加した「サンフェス」で麗奈がパーっと音を出してしまう場面や、コンクールのためのトランペットソロのオーディションなど、何度かレコーディングを行ったのですが、「この時はもう少し下手に吹いてください」といったオーダーもありましたね。

麗奈と中世古香織先輩がソロの座を競うオーディションのシーンをアニメで観た時、香織先輩の音を聴いて「結構うまいな。俺の演奏で大丈夫かな」と心配になり、なぜか自分がオーディションを受けている気分になりましたね(笑)。

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インタビューはオンラインで行い、朗らかにお答えいただいた。

 

朝から晩まで吹きたいから、プロになるしかない

――トランペットとの出会いについて教えてください。

実は、中学校1年生の頃は野球部に入っていて。ところが、1年生の時はキャッチボールすらやらせてもらえず、球拾いばかり。そんな時に聴こえていたのが、トランペットの音色でした。文化祭で改めて吹奏楽部の演奏を聴くと、やっぱりトランペットの演奏が自分の感性に響いたんです。「吹奏楽部に入りたい」と両親に相談すると、父親も「トランペットなら」と許してくれました。

――吹奏楽部に入部後は、コンクールにも出場されたのでしょうか?

中学2年のときに、一度だけあります。ただ、僕が活動していた吹奏楽部は、コンクール強豪校というわけではなくて。結果や高得点を重視したり、音程やリズムの細かいところを追求したりするというより、むしろ点数の取りづらいクラシック作品を演奏し、いかに音楽の中身を表現するかを大切にする吹奏楽部でした。

熱心な先生のもとで一生懸命コンクールに取り組む『響け!ユーフォニアム』の北宇治高校吹奏楽部が羨ましくなることもありますが、強豪校ではなくのびのびと音楽に打ち込める環境だったからこそ、よかったとも思っていて。

顧問の先生は、木曜日になるとスタジオに連れて行ってくれて、そこで金管楽器奏者の方たちと一緒にアンサンブルをさせてくれたりしました。大人の皆さんに「この録音は聴いておいたほうがいい」と教えていただいたり、帰りにはラーメンを食べたり。そういう思い出こそ、心に残っているんです。

そういう経験があったからこそすっかりトランペットにハマってしまって、「朝から夜までずっとトランペットを吹いていたい。それならプロになるしかない」と決断しました。

――『響け!ユーフォニアム』には京都コンサートホールと思われる場所も登場していますが、上田さんご自身もここで演奏した経験は?

学生時代はまだ開館されていなかったので、北宇治高校吹奏楽部のようにここでコンクールを受けた経験はありませんが、プロになってからは何度も演奏しました。楽屋や舞台上のバルコニーなど、本当に忠実に再現されていますよね。

他にも、トランペットソロの再オーディションのシーンは、宇治市文化センターですよね。久美子の住む最寄り駅である「黄檗駅」なんて、全国で知っている方はあまりいないんじゃないでしょうか。京都の風景が感じられて、私自身楽しませていただいています。

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堀川高校音楽科(現在は京都堀川音楽高校)に在籍中の演奏の様子

金管アンサンブルにのめり込んだ学生時代

――『響け!ユーフォニアム』の新作は、アンサンブルコンテストがテーマになっています。上田さんご自身、学生時代にアンサンブルのご経験はたくさんあるのではないでしょうか。

初めてのアンサンブルは、中学2年生の冬でした。編成は金管八重奏で、演奏したのはジョヴァンニ・ガブリエリの『ピアノとフォルテのソナタ』。指揮者がいないからこそ、自分たちで音楽を作っていく必要がある。合奏にはない難しさを感じたのを覚えています。

――上田さんは、高校では堀川高校音楽科(現在は京都堀川音楽高校)に進学されました。やはりここでもアンサンブルの経験をたくさん踏まれましたか?

アンサンブルづくしでしたね。トランペットの先生に、「こんな作品があるよ」と教えていただいては、先輩方を誘ってたくさん演奏しました。その時期は、ソロよりもアンサンブルがやりたい気持ちが大きかったほどです。通学時はいつもエンパイア・ブラスやフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのCDを持ち歩き、ポータブルプレーヤーで擦り切れるほど聴きました。

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高校1年生のころに経験した金管五重奏の様子。お寺の門の前で演奏した。

東京藝術大学に入学後は、金管アンサンブルグループ「Buzz Five」を結成しました。今でこそ金管アンサンブルのグループはたくさんありますが、当時は認知度がそこまで高くなくて。先輩やOBからも「まずはオーケストラできちんと吹けるようになりなさい」なんて言われたりしている傍らで、「自分はこのグループをプロにしていきたい」という気持ちが強くなっていましたね。

――高校・大学でそこまで金管アンサンブルに惹かれたのは、どうしてでしょうか。

音楽の多様性です。例えば、オーケストラや弦楽四重奏などでジャズやポップスをやろうと思っても、できないことはないもののレパートリーはあまり多くありません。その点、トランペットはベートーヴェンやモーツァルトなどのクラシックや、吹奏楽や映画音楽の分野でも活躍していますし、テレビから何気なく聴こえてくることもある。どんなジャンルでも活躍できるからこそ、金管アンサンブルでできる作品も多様性があるんです。

それに、僕の周りには「金管アンサンブルがやりたい」とポジティブに考えているメンバーがたくさんいて。さまざまな課題が生じても新しいアプローチを提案したり、面白がったりするムードを作っていく。そんな人たちばかりですね。

――やはり、アンサンブルにはチームワークも大切ですよね。

お互いへのリスペクトが大切です。音楽家として、人間として、それぞれを認め合う。「この音程が」「このリズムが」と細かいことを強要し合うと窮屈ですが、互いに歩み寄って合わせていくことで、だんだん楽しめると思います。

そもそも音楽や楽器に取り組むのって、すごくプレッシャーのかかることです。アンサンブルの場合、指揮者がいないからこそ、メンバー同士で同じ方向にベクトルを向けていかなければいけませんし、そこで何が起きても誰のせいにもできません。そんな大変で痺れるような本番をともに経験することで、いつしか戦友のようになっていく気がします。

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東京藝術大学在学中に結成した金管五重奏団「Buzz Five」。左からトランペットの上田じんさん、トロンボーンの加藤直明さん、チューバの石丸薫さん、ホルンの友田雅美さんと松山萌さん

自分の想像した音が自然と出てくる「YTR-9335CHS」

――現在、上田さんはヤマハのXenoアーティストモデル「YTR-9335CHS」を使用されているとのこと。どうしてこの楽器を選ばれたのか、教えてください。

2014年から使用していて、それまで他社の楽器を使っていたのですが、音程やレスポンスのコントロールがなかなか難しくて。いくつかのメーカーや楽器を経験した今だからこそ、YTR-9335CHSは「音楽に夢中にさせてくれる楽器だな」と思います。

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ヤマハXenoアーティストモデル「YTR-9335CHS」

演奏しているときに「次の指遣いで大丈夫かな」「高音はヒットするだろうか」と心配する必要がなく、頭の中でイメージした音がそのまま出てくるんです。まるで、自分の声で歌っているような感覚ですね。「次はどんな音を出そうか」と考えているうちに、音になっている。こんな理想的な楽器はないんじゃないでしょうか。

麗奈の演奏をレコーディングした当時も、この楽器を使用しました。かなりタイトな日程でレコーディングが決まったにもかかわらず、無事に録音に集中できたのは、まさにこの楽器のおかげ。大変な時でも、手を差し伸べてくれるような存在ですね。

――素敵なエピソードをありがとうございました。『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』も楽しみですね!

文:桒田萌

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応募期間

2023年8月2日(水)~2023年8月6日(日)23:59

当選人数

抽選で10名様