住友生命いずみホールが取り組まれるオルガン公演シリーズ、そのはじめられたきっかけとは?

皆さんこんにちは。今回は「バッハ・オルガン作品演奏会」シリーズや「バッハ・オルガン音楽の美学を巡る」シリーズなど、オルガン公演のシリーズを今まで積極的かつ継続的に続けてこられ、オルガンファンにはとても興味深い活動をされている住友生命いずみホールの取り組みをご紹介いたします。オルガン公演を担当されていらっしゃる、梅垣さんにお話を伺いました。

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ホール全景(撮影:樋川智昭)

質問1:「バッハ・オルガン作品演奏会」シリーズや「バッハ・オルガン音楽の美学を巡る」シリーズなどのオルガン公演シリーズをはじめられたきっかけを教えてください。

「バッハ・オルガン作品演奏会」シリーズのきっかけ。

住友生命いずみホールでは、開館以来本格的なオルガン・コンサートを開催し続けて参りました。しかし、2005~2006年度の2シーズンは、シリーズを持たず、単発で国内外の著名なオルガニストをお招きするコンサートを開催し、今後どのようにパイプオルガン公演を展開するかを模索していました。
その時期、ホールの音楽ディレクターを務めていた礒山雅が、同じ音楽学者であるクリストフ・ヴォルフ教授との交流の中で、「バッハ・アルヒーフ・ライプツィヒ」と共にバッハのオルガン音楽を紹介するシリーズを始める案が出てきました。「バッハ・アルヒーフ・ライプツィヒ」にとってもドイツ以外の機関との初めての提携でした。2007年5月より、全10回にわたる「バッハ・オルガン作品連続演奏会」がスタートしたのです。シリーズ初回時に、礒山前音楽ディレクターは、以下のような言葉を記しました。

風土が違うためでしょうか、バッハのオルガン作品は、われわれにとってハードルが高いという印象があります。しかし、親しんでみると名曲の広がりに驚かされ、バッハへの理解の高まりを実感できるのも、この分野です。アルプスのような雄峰から美しい庭園のたたずまいまで、バッハのオルガン作品は多種多様ですが、それらを系統立てて聴いていただくべく、このシリーズを企画しました。バッハ・アルヒーフ・ライプツィヒの協力を仰ぎ、バッハ研究の最高権威であるクリストフ・ヴォルフ氏に芸術監督をお願いしたのは、研究の最先端を踏まえ、文化とのつながりも重んじた、信頼のおけるシリーズにしたいという願いからです。皆様のご来場をお待ちしております。

礒山 雅

シリーズは、各国のトップ・オルガン奏者が次々に登場するリレー形式に開催し、回を重ねる毎にお客様や音楽界の皆様からの注目が大きくなりました。第10回目のコンサートを迎える頃には「もっとこのシリーズを続けて欲しい」というお客様からのリクエストと、ヴォルフ教授からの「世界中にはもっとご紹介したいオルガニストがたくさんいる」とのお言葉に背中を押され、2012年より「バッハ・オルガン作品全曲演奏会」をスタートしました。
バッハのオルガン作品全228曲を、バッハの数字である14のコンサートに振り分けて、どの公演も魅力があるプログラムになるように作ったのは、礒山前音楽ディレクターでした。登場する素晴らしいオルガニストは、ヴォルフ教授が選出してくださいました。
2019年3月で、無事に全曲演奏会は、完走いたしました。その後、同シリーズのアンコール企画を経て、現在は、2つのオルガン・シリーズを実施しています。

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「バッハ・オルガン作品全曲演奏会」ポスター

「フランス・オルガン音楽の魅惑」シリーズのきっかけ。

バッハ・オルガン作品演奏会シリーズの継続で得た財産のひとつに、国内外のオルガニストの皆様との交流が深まったことでした。開館当時よりホールのオルガン企画を支えてくださった土橋薫先生のご紹介で日本オルガニスト協会にも参入させていただき、皆様のご意見を直接お聞きできる機会も増えました。その中で、「フランス製のオルガンなので、フランス音楽も聴きたい」とのご意見が、想像をはるかに超えて多く寄せられました。ちょうど2018年には、ホールを休館し、パイプオルガンのオーバーホールを実施していました。楽器の整音作業には、フランスよりミシェル・ブヴァール氏が来日されお力をお貸しくださっているところでした。ブヴァール氏には、バッハ・オルガン作品全曲演奏会Vol.9(2016年10月開催)にご登場いただき、大変良いコミュニケーションを取らせていただいた記憶があったので、率直にご相談させていただきました。すると是非力になろうという心強いお言葉を掛けてくださいました。
そこで始まったのがミシェル・ブヴァール氏にプロデューサーをお願いし、2021年度よりスタートした「フランス・オルガン音楽の魅惑」シリーズです。シリーズ開始時のプロデューサーのメッセージは以下の通りでした。

日本を代表するいずみホールの美しいオルガンは、伝統的なフランスのオルガン製作技術の粋を集めてつくられた傑作です。偉大なフランス人オルガニスト アンドレ・イゾワールの協力を得て、1990年にイヴ・ケーニヒが製作したこの楽器は、ドイツ音楽にもフランス音楽にも、古典から現代曲まで、幅広いレパートリーの演奏に適しています。そのためヨハン・セバスティン・バッハのオルガン曲全曲演奏シリーズを経て、今度はフランス音楽シリーズを聴衆に届けようといういずみホールのアイディアは、まさに妙案といえるでしょう。(中略)
わずか3公演で6世紀にわたるフランスのオルガン音楽の歴史を、日本のみなさまにご紹介するのは、正直申し上げて。。。かなり大きなチャレンジでした。それぞれの時代をもっとも象徴する作品は?膨大な作曲家名のリストから外せない作曲家は?悩み抜き、まさに苦渋の選択の末に完成したプログラムばかりです。多くの方々に楽しんでいただければ幸いです。  

ミシェル・ブヴァール

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過去の公演チラシ

「バッハ・オルガン音楽の美学を巡る」シリーズのきっかけ。

大阪音楽大学の学生だった頃よりホールのオルガンを弾きにいらしていた冨田一樹氏が、2016年7月にバッハ国際コンクールのオルガン部門にて日本人初の第1位に輝かれるという大変嬉しいニュースが届きました。彼が大学4年生の時にオーケストラ公演のオルガン奏者としてご出演いただき、その際に将来の夢を聞かせていただいていた私にとっては、自分のことのように感激したことを覚えています。 そして、全国に先駆けて2017年4月に凱旋コンサートを開催。その後も機会がある度に冨田氏には公演にご登場いただきました。大阪から羽ばたかれた音楽家にとって、住友生命いずみホールをホームと思っていただきたいと常に思っています。
ある時、私は現代音楽のコンサートにご出演いただきたいと冨田氏にお願いしました。すると、彼は「バロック音楽の担い手である」ことへの誇りをお話してくださいました。それをきっかけに彼とバロック音楽のシリーズで共に歩むことを思い描きました。そして、ヴォルフ教授からも「いずみホールにおけるバッハのシリーズを引き継ぐのは、彼が最も相応しい」と太鼓判もいただきました。
冨田氏には、彼のライフワークであるJ.S.バッハの音楽を、ご自身が表現したいように3つのコンサートで表していただきたいとお願いしました。そしてご提案いただいたのが、現行の「バッハ・オルガン音楽の美学を巡る」シリーズです。

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冨田一樹氏凱旋コンサートのチラシ

質問2:実際に続けてこられてみて、当初の目標や狙いに対してどのような成果がおありだったでしょうか。

シリーズを続けることで、多くのオルガン愛好家や、オルガニストの皆様に、私共のホールの存在や、ホールの楽器や取り組みを知っていただけるようになりました。
地域の方々にパイプオルガンの音色を知っていただくことを目指して続けていた公演が、地域の方々だけではなく、全国の愛好家や専門家にオルガン芸術の本質を求めてお運びいただけるようになりました。
そして、私がなによりも驚いたのが、シリーズにご登場くださったあるオルガニストが「日本のいずみホールからのinvitation(出演依頼)が届くのを待っていたのよ!仲間がみんな演奏して、楽器と聴衆が素晴らしいと聞いていたから。」と喜んでくださったことでした。世界とホールのお客様をお繋ぎする一役を担えている気持ちになりました。

質問3:今年も様々な取り組みをご予定と察しますが、今後の注目のオルガン公演がありましたら、教えてください。また今後の取り組みでご予定されていることがありましたら教えてください。

2021年よりスタートした「フランス・オルガン音楽の魅惑」と「バッハ・オルガン音楽の美学を巡る」は、どちらも3年間のシリーズです。2023年度に3シーズン目を迎えます。
フランスから、ノートルダム大聖堂のオルガニストのヴァンサン・デュボワ氏が来日し2024年に再建完成が期待されるノートルダム大聖堂を称え、『交響曲作曲家から現代作曲家までの偉大なフランス音楽の伝統』を紹介します。一部、ホールのレジデント・オーケストラである、いずみシンフォニエッタ大阪の打楽器メンバーとの共演にもご注目ください。
冨田氏のシリーズは、「巧みな演奏効果を目指して~中期」と銘打ち、中期作品を披露します。
今後の取り組みとしても、「J.S.バッハ」と「フランス音楽」は私共のオルガン・シリーズの柱になることは確実です。

質問4:ホールの特徴、そして設置のパイプオルガンの特徴などを教えていただけますか。

豊かな響き、そして柔らかな音色――それが住友生命いずみホールの特徴であり、当ホールのパイプオルガンの特徴であると思います。
住友生命いずみホールに集ってくださる音楽家の皆様と聴衆の皆様が、音楽を通じて幸せな時間をお過ごしいただける場でありたいとスタッフ一同日々努めています。

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ホール所蔵オルガン(撮影:樋川智昭)

質問5:バイカウントオルガン通信の読者にメッセージなどがございましたらよろしくお願い申し上げます。

今後も住友生命いずみホールでは、独自の企画をお届けし続けます。
コンサート会場へ足をお運びいただけたからこそご体験いただける、「一期一会」の音楽との出会いをご用意しております。ご注目いただけますと幸いです。
まずは、今年登場するオリヴィエ・ラトリー氏とヴァンサン・デュボワ氏という2名のノートルダム大聖堂のオルガニストが、フランス・ケーニヒ社製の楽器を用いて、それぞれどのような音色を引き出してくださるのか・・・お楽しみにいらしてください!お待ちしております。

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ラトリー氏公演のチラシ

いかがでしたでしょうか。住友生命いずみホールの皆様が真摯にオルガン音楽に向き合い、強い意志のもとにオルガン公演シリーズを続けられてきたことがよくわかり、印象的なお話となりました。今後の更なる展開に期待したいと思います。お話を伺った梅垣さん、ありがとうございました。

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左はヴォルフ氏と冨田氏、右はヴォルフ氏とお話を伺った梅垣さん

※住友生命いずみホール公式サイトはこちら

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