みなさま、こんにちは。
いよいよ季節は春を迎えて、何か新しいことを始めるには最適のシーズンかと思います。
この春よりオルガン演奏を始められる方や、過去に演奏していたオルガンを再び始める方も多いのではないでしょうか。
コロナ禍での外出自粛の流れから、最近では自宅練習用にバイカウントクラシックオルガンを購入される方も以前より増えてまいりました。今回はそんな新たにオルガン演奏を始められる方に最適と思われる教則本「オルガン奏法」(道和書院)に注目し、その制作に携われたオルガニストの近藤岳さんに本書制作にまつわるお話を中心にインタビューに答えていただきました。是非ご一読ください。
近藤 岳さん
「オルガン奏法」制作の経緯を教えていただけますか?
私が(一社)日本オルガニスト協会の理事メンバーだった2018年に、「中・長期事業計画」が立ち上がりました。次世代育成に向けた取り組みが大事な柱の一つなのですが、その中で、「新しいオルガンの教則本」の誕生を望む声が上がりました。
オルガンの奏法は時代の流れを受けて変遷し、これまでに数々の欧米のオルガニストが書いたたくさんの教則本が世に登場しました。ただ、現代ではもうすでに古い奏法に映るものも多く、実際にそれらの教則本を練習に取り入れる際の内容の見極め・取捨選択など、教え手にも習い手にも煩わしいことが多いのが実情でした。
このような背景から、現代の視点に立ち、様式を踏まえ個々の音楽を「今どのように演奏すべきか」といった点を特に大切に考えた、日本語で読める分かりやすい教則本制作のプロジェクトが立ち上がりました。その著者として選出していただいたことが制作のスタートとなりました。当初から企画・立案、執筆を近藤が担い、その後2019年に新たな執筆メンバーとしてオルガニストの梅干野安未さん、オルガンに造詣の深い作曲家の松岡あさひさんを迎えて、実現に向けたより具体的な制作活動が開始しました。
制作時の苦労した点や秘話などを教えていただけますか?
たくさんありすぎて、挙げ始めたらキリがなくなってしまうのですが(笑)、やはり一番大変だったのは、さまざまな奏法を現代の視点でどのように見極め、本の内容として筋が通っていながらどうやってカテゴリー分け(章立て)していくか、また、どう分かりやすく示していくのか?ということでした。これは本当に悩ましく、アイデアが二転三転しました。
また、奏法の名称をどうするのか…例えば「レガート奏法」という名称は一般的だけど、反対にバロック音楽などを適切に表現するための奏法はどんな名称を用いるのが良いのか?や、もっと細かいことで言うと、「一般的に離鍵のことを“リリース”と言うのに対し、打鍵のことは一体何と言うのが適切か?」や、「そもそもオルガンで鍵盤を押して音を出すことを、「打鍵」と言うのが果たして良いのか?」「では打鍵を使わないのであれば、対になる離鍵も使わない方が…」などなど、一見些細なことのようですが根幹をなす大切な事柄を検討するのに、ものすごく時間がかかることがありました。
「オルガン奏法」の見どころ(読みどころ・弾きどころ)はどんなところでしょうか?
上記の苦労した事柄が最終的に本の中でどのようになったのかは、ぜひ本をお手に取って確認していただければ嬉しいです!(笑)。実は、教則本を制作していく過程で、本のコンセプトも徐々に変化していきました。当初は、既存のオルガン曲を用いず、全て書き下ろしによる楽曲によって奏法をマスターしていけるような構想もありました。最終的には、既存のオルガン音楽を演奏するためにどんなアプローチが考えられるのか、具体的な奏法のヒントや手引きになり、橋渡しができるような内容となりました。
「見どころ」はたくさんあるのですが、特筆したいのは、全編を通じた「本の構成」です。欲張りですが、初めてオルガンに触れる方から、すでにオルガンを習っている方まで、幅広い層の皆さんにいろいろな使い方をしていただけるように心がけました。本は、読みやすい文章と譜例を中心に構成されていますが、特徴的な6つの項目がそのガイドになっています。技術要素に焦点を絞った「ドリル」、技術要素を活かすために多様な響きで書き下ろされた小曲の「エチュード」、既存のオルガン曲(部分)が登場する「弾いてみよう」、また「練習のヒント」「ワンポイント」「先生へ」といったコラムのように読んでためになる項目もたくさん掲載されています。ですから、必要な箇所を辞典のように開いて使っていただいたり、興味のあるところを少しずつ弾いたり、読んだりすることから始めていただくのも面白いかもしれませんね。もちろん最初からでもOKです。さまざまな音楽と奏法に触れるきっかけとなっていただけたらと思っています。
「オルガン奏法」で感じとってほしいこと・習得してほしいことは、どんなところでしょうか?
この記事を読んでいただいている皆さんの中には、ひょっとしたらパイプから発音されるオルガン(注:パイプ、送風装置、鍵盤から成るオルガン)に触れたことがない方もいらっしゃるかもしれませんね。この本は冒頭からパイプを有するオルガンを念頭に書かれており、具体的に実際のパイプオルガンのトラッカー鍵盤で試していただきたい項目がたくさんあります。これらは電子オルガンでは体験しにくいことで、実際に譜例を弾いたとしてもピンとこないことでしょう。いつかはぜひ指先や足先に「風」を感じ、パイプからほとばしる音を自在に奏でていただきと思いますが、電子オルガンでも常にオルガンの発音する仕組みをイメージし、鍵盤=パイプに直結する弁の開け閉め(タンギングをする時の舌先の表現)を意識することはとても大切なことかもしれません。
また、特に気に留めていただきたいことは、本の前半で紹介される、主にバロック音楽に適したアプローチをする奏法です。「なぜこの指づかいで演奏するの?」「どうしてわざわざ音が切れてしまうような指づかいをするのだろう?」と思われるかもしれません。でも心配ご無用です!ぜひ楽譜に書かれたイメージ図や指づかいのままに、その通り演奏してみてください。指のまとまりと音形が仲良くなることで、きっと言葉をしゃべるような、生き生きとしたタンギングが身につくと思います!
最後にオルガン愛好家・ファンの皆さまへのメッセージをお願いします!
本が刊行されて早いもので2年が経ちました!嬉しいことに、手に取っていただける方がコンスタントに増えているようで、たくさんの方々から反響をいただいております。それだけ、オルガンのニーズがあるということなのでしょう。日本の各地にもこの数十年でたくさんのオルガンが設置され、オルガンを聴いたり体験したり、習うことも叶いやすい状況と変化してきました。オルガンにはたくさんの魅力と可能性があります!ぜひ身近なところからオルガンを存分に感じていただき、末長くオルガンを愛していただけたら幸いです。
『オルガン奏法』も皆さんのお役に立ち、ずっと愛され続ける1冊になればこんな嬉しいことはありません!
※道和書院のHPはこちら↓
https://www.douwashoin.com
近藤さん、「オルガン奏法」にまつわる興味深いお話をありがとうございました。皆様も是非一度、「オルガン奏法」に目を通され、オルガン演奏の楽しみをより深く感じていただけたら、と思います。
2022年4月から横浜みなとみらいホール 次期ホールオルガニストに就任されることになられた、近藤 岳さんの今後の活躍にも更に注目が集まりますね(https://mmh.yafjp.org/mmh/topics/2021/09/post-348.php)。
今後もバイカウントオルガン通信申込者の方々のオルガンライフにお役立ちとなる情報をお届けしてまいりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
オルガニスト、作・編曲家。
東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。同大学別科オルガン科修了。同大学大学院修士課程音楽研究科(オルガン)修了。2006年文化庁新進芸術家海外研修員としてフランス(パリ)に留学。
国内外でのオルガンリサイタル等のソロ演奏に加え、アンサブルや国内主要オーケストラとの共演、他ジャンルのアーティストとのコラボレーションなど、その活躍の場は多岐に渡っている。オルガニスト・作編曲家として、オルガンを中心としたジャンルの自作自演、コンサートホール、文化事業財団等からの委嘱作品も数多い。また邦人作曲家からの信頼も厚く、数々の邦人オルガン作品演奏やアンサンブル作品の初演も手がけ、いずれも好評を博している。2004年7月ミューザ川崎シンフォニーホールのオープン当初から18年3月末までホールオルガニストを務めた。
2020年に刊行されたオルガン教則本『オルガン奏法 パイプでしゃべろう!パイプで歌おう!』(道和書院)の編著者を務め、各方面から高い評価を得ている。 現在、東京藝術大学非常勤講師(オルガン)、および国立音楽大学非常勤講師(作曲理論)。一社)日本オルガニスト協会会員。2022年4月より横浜みなとみらいホール・次期ホールオルガニストに就任予定。
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