10月28日からの3日間、東京国際フォーラムにて「2022東京インターナショナルオーディオショウ」が開催されました。新型コロナの影響から、感染症対策のために完全予約制をとり、早い段階で満席となる盛況ぶりでした。国内外のオーディオメーカー33社が出展し、200を超えるブランドが一堂に会した本イベントにおいて、ヤマハは新たなフロアスタンディングスピーカー「NS-2000A」を発表。会場に訪れたお客様に向けて、本スピーカーの特徴をお伝えする講演会を実施しました。本記事では、イベント当日の様子をお伝えします。
ヤマハが追求するサウンドをリビングで楽しむスピーカーシステム「NS-2000A」
今年で39回目の開催となった東京インターナショナルオーディオショウ。本イベントへの出展は、ヤマハにとって7回目となります。
今回発表した「NS-2000A」は、「リビングで音楽を楽しむこと」をコンセプトに開発したトールボーイ型のスピーカーです。ヤマハが理想とするサウンドを追求したフラッグシップスピーカー「NS-5000」や「NS-3000」で培った技術を活かした新たなフロアスタンドスピーカーとして企画開発を行いました。本イベントは、スピーカーの魅力を展示で感じていただくとともに、講演会を通して、生活の中心であるリビングで音楽を聴く喜びを感じていただきたいという開発者の想いを、お客様の前で直接お話しする貴重な機会となりました。
スピーカーシステム「NS-2000A」展示の様子
(株)ヤマハミュージックジャパンの展示会場の様子。デモルームには 、室内の音(響き)を調えるヤマハが開発した音場コントロール製品「調音パネルACP-2」が設置されている。
アーティストによる、あるがままの音=「TRUE SOUND」を目指すスピーカー開発
開発チームによる講演会の様子
ヤマハはオーディオ製品の開発を通して、「TRUE SOUND」というコンセプトの実現を目指しています。「アーティストが込めた想いをあるがままに表現し、聴く人の感情を動かす音」を意味するこのコンセプトを、具体的な設計に落とし込んでいくために、開発チームでは音色・ダイナミクス・サウンドイメージの3つの言葉を起点に、理想の音を目指し試行錯誤を重ねました。
28日の講演会では、本スピーカーの開発に携わったホームオーディオ事業部HS開発部電気ソフトグループの熊澤さんが、TRUE SOUNDについて解説しました。
ヤマハ株式会社ホームオーディオ事業部HS開発部電気ソフトグループ 熊澤進
熊澤さん
「楽器メーカーであるヤマハは、高い音から低い音まで、楽器本来の音を鳴らしきる『音色』にこだわりがあります。『ダイナミクス』は、音の連なりによって生まれる音楽における静と動、ブレイクから立ち上がる際の音の対比をしっかり表現すること。そして『サウンドイメージ』とは、左右のスピーカーの間に、まるでアーティストがいるかのような定位感と、演奏している場のアンビエントとニュアンスがしっかり感じられることです。これら3つのキーワードをもとに、私たちヤマハはすべての商品開発を進めています。」
講演会では、TRUE SOUNDを目指す開発過程において、リファレンスとなった楽曲の試聴を行いました。音色・ダイナミクス・サウンドイメージを感じる楽曲の聞きどころとスピーカーの特徴について、開発部の杉村さんが解説します。
杉村さん
「このスピーカーの音色の表現を確認するにあたって、ヒラリー・ハーンのバイオリン協奏曲をリファレンスとして使用していました。伸びやかで透明感のあるバイオリンの音、弦を擦る演奏感、そしてボディーの鳴り感がちゃんと表現できているか。オーケストラと一緒に鳴らされるパートでは、高い音から低い音までの全体のバランスと、ホールのサウンドイメージも確認しています。また、ボーカルの楽曲としては、宇多田ヒカルの『花束を君に』を聴いていただければと思います。声の質感や密度感がちゃんと表現できているのか、さらには歌詞の情景を思い描くことができるのか、そういったところまで感じていただきたいです。」
試聴音源の再生にあたっては「フラグシップHiFi5000シリーズ」を使用しました。
新開発の振動板「ハーモニアスダイアフラム」
「NS-2000A」では、新たに開発された振動板「ハーモニアスダイアフラム」が採用されています。ヤマハにとって基幹となる楽器であり、“楽器の王様”とも呼ばれるピアノの音の響きをスピーカーでも実現するために、もっとも低い27ヘルツから、いちばん高い4kヘルツまで、すべての音色を変えずに鳴らすことができる振動板の開発過程について、開発部の牧野さんは語ります。
ヤマハ株式会社ホームオーディオ事業部HS開発部音響機構1グループ 牧野 陽平
牧野さん
「ツイーターから鳴らされる一番高い音から、中域を担うミッドレンジ、ウーファーによる低音までの音色を揃えるためには、新たに振動板の素材開発が必要でした。それぞれに求められる特性が違う中で、振動板を同じ素材で揃えた製品は珍しいと思います。新素材の開発にあたり、シミュレーションと実測を繰り返し、何十回もの試作を通して、形状や厚み、重さの検討を重ねました。
今回開発した振動版『ハーモニアスダイアフラム』は、『NS-5000』と同様、世界でもっとも強い繊維である『ZYLON®』と、ピアノの響板に使われるスプルースという木材を混ぜ込んで成形しています。スプルースは、ヤマハのフラッグシップモデル『CFX』から高級機までを製造している掛川のピアノ工場の端材を使用しました。製造過程でどうしても出てしまう端材を使用することで、結果的にSDGsにも配慮した工法となり、掛川工場から生まれているヤマハのピアノの音をスピーカーでも再現できる、我々としても納得のいく特性ができたと思っています。トールボーイスピーカーで低域から高域の音色が揃う心地よさを、ぜひご自宅で堪能していただければと思います。」
「NS-2000A」パーツ展示の様子
心地よい響きを実現する解析技術
キャビネットの設計にあたっては「FEM(Finite Element Method)解析」と呼ばれる手法を駆使。実測とシミュレーションをベースにして試作と試聴を繰り返し行い、開発を進めました。製品設計部門と同様に研究開発部を擁する、一気通貫したヤマハ特有の開発過程の強みがここに生かされています。
杉村さん
「ダイナミクスを表現するにあたって重要な要素となったのは、キャビネットの設計です。レーザー測定をすることで、まずは筐体がどのように振動しているのかをしっかりと把握し、シミュレーションのデータを通して最適な構造を模索しました。不要な共振を抑えつつ、リビングで聴いた時に心地よく感じられる響きにコントロールするかが、キャビネット設計における勘所となります。
これまでは高度な有識者にしかできなかった数値解析が、現在は我々のような製品担当者が直接シミュレーションできるようになり、柔軟できめ細かい設計が可能となりました。ヤマハが理想とする音づくりの追求のために、科学的な根拠をもとにした設計手法が役立っています。」
ヤマハ株式会社ホームオーディオ事業部HS開発部音響機構1グループ 杉村 禎一
次のものづくりにつなげるための場所
数多くのお客様が訪れた講演会の終了後、熊澤さんに本イベントへの出展と「NS-2000A」発表にかけた想いをうかがいました。
熊澤さん
「東京インターナショナルオーディオショウは、ヤマハの製品をお使いいただいているお客様とのタッチポイントとして、とても大事な場所だと考えています。実際にスピーカーの音を聴くお客様の姿を見ることは刺激になりますし、お客様の顔が浮かぶと、開発者は今後の仕事において自ずと手が抜けなくなります。次のものづくりの糧にするためにも、開発者にはできるだけこういった場に出て開発秘話について話してもらうようにしているんです。
ヤマハとしては、コロナ禍の2年間を除いて、7年連続で出展を続けています。こういったイベントでは、他のオーディオブランドの存在からも刺激を受けることができます。ブランドにとって大事なのは、他とは違うことです。私たちの製品にはっきりとした『ヤマハらしさ』がないと、お客様には選んでいただけません。講演会で開発者自身がヤマハらしい音について話すことは、あらためて自分たちが目指す方向について考えるいい機会です。
今回発表した『NS-2000A』は背の高いトールボーイ型で、ヨーロッパでは主流のスタイルですが、住空間がそこまで広くない日本の生活空間にも合う形状だと考えています。ヨーロッパでは本格的なHiFiスピーカーをリビングに置く習慣が定着しており、リラックスして会話を楽しみながらステレオで音楽を聞く方が多い一方、日本ではオーディオ専用の部屋で真剣に音楽を聞く方が多い印象です。もちろんそういった楽しみ方も素晴らしいですが、今回発表した『NS-2000A』では、もっとリラックスした音楽体験も提案できればと思っています。
『NS-2000A』のラウンド形状とブラックの塗装は、リビングにピアノがある風景をイメージしてデザインしています。我々が理想とする音を鳴らすことを目指したフラッグシップシリーズの思想を継承しつつ、リビングでリラックスしながら音楽を楽しめるスピーカーを、手の届く価格帯で提供したいと考えて開発しました。本スピーカーを通して、お客様に極上の音楽体験を提供していきたいと考えています。」
写真:寺島由里佳 文・編集:堀合俊博(a small good publishing)