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マリンバの魔術師2人、幻想的なリメイクと交響劇/Lucid Duo Marimba duo Concert “Marimba Journey” & “Sonic Synergy”

マリンバの魔術師2人、幻想的なリメイクと交響劇/Lucid Duo Marimba duo Concert

ファンタスティックなステージだ。マリンバが幻想的な響きの鍵盤打楽器であることを実感した。2025年11月30日、ヤマハホール(東京・銀座)での「Lucid Duo Marimba duo Concert “Marimba Journey” & “Sonic Synergy”」。ベルギー国際マリンバコンクールデュオ部門優勝のLucid Duo(ルシッド・デュオ)の2人がベートーヴェンやラフマニノフらの作品の幻想的なリメイクのほか、2台のマリンバとエレクトロニクスによる長大な交響劇といえる『Sonic Synergy』をはじめ魅惑の自作を魔術師のように披露した。

Lucid Duoはブルガリア出身のマリンバ・打楽器奏者イレナ・マノロヴァとポーランド出身の作曲家・マリンバ奏者トマシュ・ゴリンスキーの二人組。まずはゴリンスキーが自作『ルミノシティ』を独奏した。現代音楽とはいえ、トレモロによる冒頭の沈鬱な旋律から調性(変ロ短調か)が感じられた。ポップな面を持つアーティストだと分かる。

原曲と異なる新たな世界

『ルミノシティ』は厳かな曲の後にアップテンポの曲が続く。2楽章構成なのだ。マレット4本で鍵盤を叩くのだから、理論上は4和音までしか同時に鳴らせないはずだが、フワッとエコーがかかった感じで幻想的な響きが広がる。減衰楽器であるマリンバ特有のトレモロやゼクエンツ(反復進行)を印象付ける独奏だった。

トマシュ・ゴリンスキー 演奏中の写真

続いてマノロヴァが登場してデュオとなり、J.S.バッハの『ゴルトベルク変奏曲 BWV988』より「第14変奏」。そしてラフマニノフの『10の前奏曲 Op.23』より「第5番ト短調」。これらは編曲というよりもリメイクと呼びたい。チェンバロやピアノからマリンバへの幻想的なリメイクだ。原曲に忠実な編曲だとしても、良い意味で原曲とは異なる新たな世界を繰り広げた。

『ゴルトベルク変奏曲』はバッハ・ファンタジーとも呼ぶべき音楽追想録のようだ。輪郭が柔らかくて奥深い音色は、バッハの原曲への郷愁を呼び起こす。ラフマニノフの『前奏曲第5番』は土俗的なダンスを思わせる曲の味わいとパフォーマンス。ピアノの原曲以上に舞踊的なリズムの本質が浮き彫りになり、マリンバが打楽器であることを思い出させた。

イレナ・マノロヴァ 演奏中の写真

幻想曲風ソナタに合う音色

ベートーヴェンの『ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調《月光》Op.27-2』より「第3楽章」もまた圧巻のリメイク。息の合ったリズムで駆け抜けていく高速楽章だが、被写界深度を浅くした写真のように夢見心地の印象を聴き手に与える。そういえばベートーヴェンは『ピアノソナタ第13番変ホ長調Op.27-1』とともに『同14番』に「幻想曲風に(Quasi una fantasia)」という副題を付けたのだった。マリンバは幻想曲風ソナタにぴったりではないか。

ゴリンスキー作曲『ザ・ミラーⅡ』『ピュリティⅡ』はいずれもミニマルミュージックの反復の曲調を想起させるが、スティーブ・ライヒのような反復の微細な変化ではない。くぐもったトレモロやアルペジオの中から驚くほど美しい旋律が立ち上がってくるところが魅力だ。特に『ピュリティⅡ』ではエレジー風の美旋律が印象的だった。

前半の最後は、日本を代表する国際的マリンバ奏者の安倍圭子が作曲した『わらべ歌リフレクションⅡ~2台のマリンバのための~』。マノロヴァは桐朋学園大学で安倍に師事し研鑽を積んだ。アルペジオの中から日本の民謡や祭囃子のイメージが浮かび上がってくる曲だ。2人の「よっ!」という合いの手が入るなど、日本風の曲調で盛り上がった。

エレクトロニクスと共鳴

後半はゴリンスキーの自作『Sonic Synergy』のアジア初演。サウンドスケープ(音風景)の録音を含むエレクトロニクスと2台のマリンバが共鳴する約50分の長大な交響詩、あるいは交響劇。暗闇の中からシンセサイザーが高いシの音を鳴らし始め、低音域でミの音を重ねて広大な大地を想像させる。地響きや雷鳴が轟く。2人の指とマレットが黄緑とオレンジの蛍光色で輝く。追想風の旋律が反復する。全編は9曲に分かれているが、連続して演奏していく。

ミニマル風でもあるが、風の音や電子的なノイズ音も交えながら、曲は様々な表情を見せて進行する。レゲエのダブのようなマリンバの打音のエコーも聴こえる。そして途中からディスコビートが始まった。楽音と噪音、ミニマルとディスコが交錯し、音の相乗効果(Sonic Synergy)を作り上げていく。ポリリズムから浮かび上がる劇的な旋律が美しい。ジャンルを超えた新しい調性音楽を実感させる。照明を駆使した没入型のステージは新たなコンサート体験も提示した。マリンバの魔術師2人が開く21世紀音楽に今後も期待したい。

カーテンコールの写真

池上輝彦〔いけがみ・てるひこ〕
音楽ライター。日本経済新聞社シニアメディアプロデューサー兼日経広告研究所研究員。早稲田大学商学部卒。証券部・産業部記者を経て欧州総局フランクフルト支局長、文化部編集委員、映像報道部シニア・エディターを歴任。音楽レビュー、映像付き音楽連載記事「ビジュアル音楽堂」などを執筆。クラシック音楽専門誌での批評、CDライナーノーツ、公演プログラムノートの執筆も手掛ける。日経文化事業情報サイト「art NIKKEI」にて「聴きたくなる音楽いい話」を連載中。
日本経済新聞社記者紹介

文/ 池上輝彦
photo/ Ayumi Kakamu

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2026.01.16
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