
イングヴェイ・マルムスティーンは現代ロック・ギタリストの最高峰の一人として、世界中に多くの信奉者を持つアーティストだ。リッチー・ブラックモアやウリ・ジョン・ロートのようなハード・ロックから影響を受けながら、バッハ、ヴィヴァルディ、パガニーニなどのクラシックのイディオムを取り入れ、超絶テクニックで弾きまくるスタイルはセンセーションを呼ぶ。1980年代前半、スティーラーやアルカトラスなどのバンドでプロ・デビューを果たし、アルバム『ライジング・フォース』(1984)でソロに転向(あるいは“イングヴェイ・マルムスティーンズ・ライジング・フォース”名義)するや、彼はハード・ロック界に一大テクニカル・ギター・ムーヴメントを巻き起こした。“シュラプネル・レコーズ”を軸としたこの潮流からはトニー・マカパイン、ポール・ギルバート、マーティ・フリードマン、ヴィニー・ムーアなどが巣立っていったが、イングヴェイはそんな中でも“別格”の支持を得てきた。
天才ギタリストとの対話
イングヴェイが常に世界のリスナーの注目を集めてきたのは、その音楽はもちろんのこと、彼の強烈なキャラクターによるところも小さくない。“天才”の名を欲しいがままにするイングヴェイだが、彼は自分が“天才”であることを知っており、そう評価されていることを知っており、世界中に多数のフォロワーがいることを知っている。彼はしばしばこう発言している。
「イングヴェイ・マルムスティーンになろうとする奴は大勢いる。でもニセモノには気をつけて欲しい。本物のイングヴェイ・J・マルムスティーンはたった一人だ」
そんな自信は彼の強固なアイデンティティに裏打ちされたものだが、それを“傲慢”と捉える人間もいることは事実。特に解雇されたバンド・メンバーは彼のワンマンぶりについて口を極めて罵ったりする。それをマスコミが面白おかしく書き立てるせいで、彼が性格破綻者であるかのように考えるファンもいるようだ。
筆者(山﨑)は1997年から2021年にかけて6回イングヴェイにインタビューしたことがあるが、それは大きな誤解。一度も不快な思いをしたことがない。それぞれ1時間に満たない時間、ジャーナリストとアーティストとして対話をしただけでは判らないことも多く、実際に彼と直接、長期間の仕事をしてみたら良くない面も見えてくるかもしれないが、いつだって雄弁に、熱意とユーモアを込めながら話してくれている。
元メンバー達から批判があることについて訊いてみると、彼はまず「俺が独裁者だからだな」と言って、クスクス笑う。それから真顔になって、こう語ってくれた。
「俺が彼らにある一定の水準を常に求めるからだろうね。観客は高いCD代やチケット代を払うんだから、その代償に見合う高い質のプロダクトを提供するべきだ。しかもそのCDやチケットには“イングヴェイ・マルムスティーン”と書いてある。それは最高の品質を保証している印なんだ」
シリアスな口調で言った後、少し照れたかのように、彼は再びジョークを飛ばす。「救いなのは、俺がまだクビになっていないことかな」
40年以上、音楽シーンであらゆる毀誉褒貶に晒されてきた彼だが、意外と(?)ピュアな部分があるのも興味深い。「CDを開発したのは、フィリップス社の開発部門に勤めていた俺の伯父さんなんだ!」エッヘン!と言わんばかり、自慢げな表情を見せる。このネタは欧米のメディアでも披露しているので、毎回エッヘン!としていることを想像すると、可愛くすら思えてしまう(190cm超えの身長で、その存在感ゆえにもっと大きく見えるイングヴェイを捕まえて“可愛い”と言うのもどうかと思うが)。
俺には俺だけのユニークな音楽スタイルがある
「俺は自分自身の最大のファンであるのと同時に、最も厳しい批評家でもある」と主張するイングヴェイに向けられる最も大きな批判のひとつが“毎回似たようなアルバムで似たようなギター・プレイを弾いている”というものだ。初期のアルバムと最近のD.I.Y.の作品(ギターとヴォーカルを含むほぼ全パートの演奏とプロデュースを自分で手がけている)を較べるとずいぶん異なることも事実だが、そんな“似たような”スタイルはむしろ、彼の哲学の産物である。
「俺には俺だけのユニークな音楽スタイルがある。そのスタイルをマンネリと呼びたければ呼ぶがいいだろう。でも、自分が誇りにしている音楽スタイルを何故変えなければならないんだ?よく“新しい可能性を探求する”とかもっともらしいことを言って、それが素晴らしいことかのように自慢してる奴がいるけど、そういう奴は自分のスタイルを持っていないからいろんな音楽に鼻を突っ込んで、匂いを嗅ごうとするんだ。俺は既に自分のスタイルを確立している。自分がどんな音楽をやりたいのか、どんな音楽をやるべきなのか、何故やるのか、すべて判っているんだ」
「俺にとって毎回がファースト・アルバムなんだ。常に新鮮な気持ちでいられるのは、妥協をしないからだ。どうすればより良い作品を創りえるか、アーティストとしてのモーティヴェーションと、最も厳しい批評家の耳を持ちながら、取り組んでいく。俺の作業には、惰性はない。いつだって情け容赦なくエキサイティングで、刺激的なんだ」と、興が乗ると凄い勢いでトークを繰り広げるイングヴェイ。スウェーデン人の多くは英語が堪能であり、アメリカ在住が長い彼ゆえ、驚くことではないが、若干のヨーロッパのアクセントを残しながらもスピード、ヴォキャブラリ共に申し分ない。そんなあたりからも、彼の“音”に対する卓越したセンスが感じられる。
俺がカテゴリーを作って、他の連中が俺の後を追うんだ
イングヴェイについてもうひとつの大きな誤解が、“唯我独尊”というものだ。己の才能を自覚し、その才能や努力に欠ける者にダメ出しをすることに何ら躊躇のない彼だが、自分が認めた相手には敬意を払っている。2009年の来日時、“プレイヤー”誌でスティーヴ・モーズ(当時ディープ・パープル)との対談が行われ、筆者はホストを務める栄誉にあずかったが、お互いのギター哲学を語り合う有意義なディスカッションが繰り広げられた。さらに2003年の“G3ツアー”ではジョー・サトリアーニやスティーヴ・ヴァイとジャムを繰り広げ、2017年と2019年には“ジェネレーション・アックス”日本公演でヌーノ・ベッテンコート、ザック・ワイルド、スティーヴ・ヴァイ、トーシン・アバシと火を噴くバトルを聴かせている。
「他人が俺の音楽をどうカテゴライズするか、まったく気にならないんだ。俺自身は、イングヴェイ・マルムスティーン・ミュージックをやっていると考えている。俺がカテゴリーを作って、他の連中が俺の後を追うんだ」と語る彼だが、2026年11月に発表される最新アルバム『ヘル・オア・ハイ・ウォーター』は、そんなイングヴェイ・マルムスティーン・ミュージックを受け継ぐ作品だ。1963年生まれ、63歳を迎えながら、「年齢なんて数字に過ぎない。大事なのは精神と肉体のあり方だ」と孤高のギター・オデッセイを往く彼の現在の姿が、ここに集約されている。
■アルバム『Hell or High Water』

発売元:キングレコード
発売日:2026年11月13日(CD)
2026年12月11日(LP2枚組)
詳細はこちら
山﨑智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログ/インタビューリスト/Yahoo!ニュース エキスパート記事一覧
本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。