
『スタディ・イン・ブラウン』(#071)で取り上げたクリフォード・ブラウンとマックス・ローチの双頭バンド、再登場です。
『スタディ・イン・ブラウン』とは収録日も重なり、メンバーも同じという本作ですが、アルバムが発する“雰囲気”はかなり違う──というのがボクの印象。
では、その原因はどこにあり、“名盤”となる要因に関係しているのかを考察してみます。
Joy Spring
アルバム概要
1954年8月に米ロサンゼルス(ハリウッド)のキャピトル・スタジオ、翌1955年2月に米ニューヨークのキャピトル・スタジオでレコーディングされた作品です。
オリジナルは10インチLP盤(1954年8月収録分の全5曲、A面2曲B面3曲)で、1955年2月に録音された2曲を追加した12インチLP盤(A面3曲B面4曲の全7曲)がリリースされています。12インチ盤と同曲数同曲順のカセットテープ、CD化もされて、ボーナス2曲を加えた全9曲のヴァージョン、別テイク3曲と未発表曲1曲を加えた全11曲のヴァージョンなどがあります。
メンバーは、トランペットがクリフォード・ブラウン、ドラムスがマックス・ローチ、テナー・サックスがハロルド・ランド、ピアノがリッチー・パウエル、ベースがジョージ・モロウ。
LP盤収録曲(全7曲)の構成は、ジャズ・スタンダードのカヴァー1曲(ヴィクター・ヤング作)と、バド・パウエル、デューク・ジョーダン、デューク・エリントン作のカヴァー各1曲、残り3曲がクリフォード・ブラウンのオリジナルです。
“名盤”の理由
先述のように、本作は『スタディ・イン・ブラウン』と収録日が重なっています。
とは言っても、本作(の一部)が先に10インチLP盤として発売され、すぐに12インチLP盤に仕立て直されて、そのときに追加された2曲が『スタディ・イン・ブラウン』の収録と重なっている、ということなので、完全に2作同時進行ではありませんでした。
1950年代のアメリカのポピュラー音楽市場において、従来の10インチLP盤と新たに登場した12インチLP盤の販売戦略がレコード会社的にどうなっていたのかは定かではないのですが、その後の12インチLP盤の隆盛を見れば「10インチLP盤から12インチLP盤に切り替えろ!」と鶴の一声があったことは想像に難くないところ。
つまり、すでに制作済みの10インチLP盤に半年後の新録音テイクを追加して12インチLP盤に“焼き直す”というレコード会社の判断は、本作に“名盤”としての手応えがあったことを示す証拠でもあるわけです。
いま聴くべきポイント
そう考えると、本作が“名盤”とされた理由を解く鍵は、10インチLP盤を12インチLP盤に“焼き直し”たことにありそうじゃないですか。
ということは、その“焼き直し”を(重箱の隅をつつくように)より楽しむために、オリジナル10インチ盤の5曲と追加された2曲(およびCDのボーナス2曲)を“聴き比べ”てみるのがいいんじゃないかと考えるところなのですが、ボクは本作を聴き直していて、もっとおもしろそうな楽しみ方を発見しました。
それは、1954〜55年という、本作が収録された時期にジャズ・シーンで起きていたことと関係しています。
ちょうどこの時期、ビバップのシーンで頭角を現わしていたドラマーのアート・ブレイキーは、ピアニストのホレス・シルヴァーとともにジャズ・メッセンジャーズを結成します。その結成のきっかけとなったのが、1954年2月に米ニューヨークのジャズクラブ“バードランド”で行なった公演で、そのもようはアルバム『バードランドの夜』としてリリースされ、ハード・バップ誕生という1950年代のジャズを象徴するエポックとなりました。
そのバードランド公演に出演していたのが、クリフォード・ブラウン。
そこで、クリフォード・ブラウンが参加していたアート・ブレイキーのバンドとマックス・ローチとの双頭バンドを聴き比べることで、ドラマーの個性の違いだけでなく、ハード・バップというサブ・ジャンルが市場で大成功を収めた要因にも迫れそうだと気づいたのですが、そのあたりはまた改めて別稿で考察してみたいと思います。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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