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Phase79:タイユフェールの時代が来る、フランスの洗練と軽やかさ、おしゃれで親しみやすい音楽(クラシック名曲 ポップにシン・発見)

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ジェルメーヌ・タイユフェール(1892~1983年)はデュレ、ミヨー、オネゲル、プーランク、オーリックとともにフランス6人組の一人だが、その中で最もポピュラーな作曲家になる可能性がある。おしゃれで親しみやすい音楽なのに、あまり聴かれてこなかった。彼女の作品は深刻や衒学を排し、フランスの洗練や軽やかさに満ちている。「ハープと管弦楽のための小協奏曲」や「ピアノ三重奏曲」を聴けば、きっかけ次第で人気化すると思えてくる。

サティが絶賛した「野外遊戯」

2026年5月1日、杉並公会堂小ホール(東京・杉並)で「Ⅳ アイヴィ〜両国門天ホール&日仏現代音楽協会から生まれた4人組〜」というコンサートを聴いた。ピアニスト4人組「Ⅳ(アイヴィ)」(飯野明日香、大須賀かおり、瀬川裕美子、安田結衣子)が2台ピアノ8手や同4手など様々な演奏を繰り広げた。ラヴェル「口絵」(同5手、1918年)や篠田昌伸「混相流」(同8手、2005年)、夏田昌和「ガムラフォニーⅡ」(同4手、2009年)、メシアン「アーメンの幻影」(同4手、1943年)とともに曲目に並んだのがタイユフェールの「野外遊戯」(同4手、1917年)だった。

Jeux de plein air for 2 Pianos: I. La tirelitentaine

タイユフェールの2台ピアノ作品を聴く機会は滅多にない。「野外遊戯」を弾いたのは瀬川と安田。機転を利かせた遊び心のある演奏は新鮮だった。「野外遊戯」は第1曲「ティルリタンテーヌ」と第2曲「カシュ=カシュ・ミトゥラ」から成る。前者は歌のお囃子のような無意味なフレーズの曲名、後者は「かくれんぼ」を意味する。スポーティーな雰囲気はサティのピアノ小曲集「スポーツと気晴らし」(1914年)を想起させる。実際、「野外遊戯」はサティに絶賛され、タイユフェールの出世作になった。

母親からピアノを習ったタイユフェールは12歳でパリ音楽院への入学を許可された。同音楽院でミヨーやオーリックらと出会い、のちに「フランス6人組」の一人に名を連ねることになる。6人は大言壮語の後期ロマン派や曖昧な響きのドビュッシーの印象主義音楽に反旗を翻し、フランスのエスプリ(機知)に回帰し、簡潔で明快な大衆性のある音楽を追求した。それはクープランやラモー以来のフランス伝統の音楽を重視することでもあり、「新古典主義音楽」と呼ばれる。

明快で簡潔、色彩も豊か

ところがタイユフェールの音楽は6人組の中でも異彩を放っている。音の繊細な表現や色彩感が豊かで、エレガントな哀愁を含む抒情に満ちている。ドビュッシーの「弦楽四重奏曲」や晩年の「チェロソナタ」「フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ」「ヴァイオリンソナタ」のような郷愁を誘う室内楽の響きがある。風のそよぎとともに木々や水辺の光が変化するような音の色彩感は、フランス印象派絵画を連想させる。6人組の批判の的だったはずのドビュッシーからもタイユフェールは影響を受けているのだ。明快で簡潔な古典派音楽と色彩豊かな印象主義音楽の融合がそこにある。

Tailleferre: Concertino pour Harpe et Orchestre (1927) : 1. Allegretto

1927年作曲の「ハープと管弦楽のための小協奏曲」は彼女の代表作の一つといえる。第1楽章アレグレットは野を渡る風のような涼しげな音楽であり、ドビュッシーの「弦楽四重奏曲」、あるいはラヴェルの「弦楽四重奏曲」第2楽章に通じる透き通った郷愁が感じられる。ハープの速いアルペジオの減衰音、弦楽とフルートの伸びやかな音色は、ラヴェルの「弦楽四重奏曲」第2楽章のピツィカートを含む弦楽アンサンブルの色彩感を好む人にとっては堪えられない魅力の響きだろう。

フランス6人組は反ロマン派であるはずだが、タイユフェールの音楽はロマン派の要素も取り入れ、新ロマン主義風でもある。20世紀前半、特に2つの大戦間の1920~30年代にはシュルレアリスムやダダイズムをはじめ伝統を破壊する前衛芸術が台頭した。シェーンベルクやウェーベルンらの無調や十二音技法の音楽も前衛運動の中に位置付けられる。一方で資本主義は大衆消費社会へと変貌し、音楽でもジャズやシャンソンなど大衆文化が花開く。ポピュラー音楽はドラマティックでロマンティックな魅力を求める。ロマン派風も取り込んだタイユフェールの作品は、6人組が志向した「大衆性のある音楽」と合致する。

新品同様に残る傑作群

1917年作曲(1978年改訂)の「ピアノ三重奏曲」もタイユフェールの傑作の一つといわれる。風のように軽やかで、透明感のある抒情は、後期ロマン派とは別次元のフランス流の知的なロマンティシズムを醸し出す。これはどう考えても現代の日本人が好む音楽だ。BGMとして流れていてもいつまでも飽きが来ない音楽。深刻で真摯な音楽を聴きたければ、ドイツやオーストリアでほかの作品を探したほうがいい。余裕のある軽やかさや優美さ、エレガントな雰囲気は、「四畳半フォーク」に対するユーミン(荒井・松任谷由実)の楽曲にも似た位置付けだろう。

Trio: I. Allegro animato

タイユフェールは認知度が高まれば一気に人気化するのは間違いない。かつて日本でほぼ無名だったのに、今では人気の筆頭格といった作曲家が何人かいる。ブルックナー、マーラー、サティあたりだ。サティの音楽は1980年代、ポストモダンの機運の中で、「大きな物語」への反発とミニマリズム志向、BGMや環境音楽の需要増といった消費文化を背景に、「家具の音楽」として一大ブーム化した。タイユフェールのブームが到来する可能性も十分にある。

箱を開いたら、充実した傑作群が収まっていたというのがマーラーやサティの先例。タイユフェールはどうか。1983年まで享年91の長寿を全うした彼女には、ピアノ曲や室内楽から管弦楽曲、協奏曲、オペラ、歌曲、映画音楽に至るまで、マーラーを超える膨大な作品群がある。それらのほとんどが一般に聴かれないまま新品同様に残されている。激動の20世紀を生きた作曲家として、ジェンダー問題を中心に伝記的な話題にも事欠かない。タイユフェールの時代がやってくる。

「クラシック名曲 ポップにシン・発見」全編 >

池上輝彦〔いけがみ・てるひこ〕
音楽ライター。日本経済新聞社シニアメディアプロデューサー兼日経広告研究所研究員。早稲田大学商学部卒。証券部・産業部記者を経て欧州総局フランクフルト支局長、文化部編集委員、映像報道部シニア・エディターを歴任。音楽レビュー、映像付き音楽連載記事「ビジュアル音楽堂」などを執筆。クラシック音楽専門誌での批評、CDライナーノーツ、公演プログラムノートの執筆も手掛ける。日経文化事業情報サイト「art NIKKEI」にて「聴きたくなる音楽いい話」を連載中。

文/ 池上輝彦

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2026.09.09
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