
ドリー・パートンが2026年8月25日、80歳で亡くなった。『I Will Always Love You』『Jolene』などで知られる彼女は高齢とはいえ、2023年のアルバム『Rockstar』で堂々たる歌声を聴かせ、全米チャート3位という、約70年におよぶ自らのキャリアにおける最高位を達成。新たなる全盛期を迎えようとしていた時期だっただけに、その死はファンを驚かせ、悲しませることになった。
カントリーとポップをクロスオーヴァーさせた人気を誇った彼女の最後のアルバムとなった『Rockstar』は、ロック・リスナーをも取り込む作品だった。ただでさえその迫力溢れるヴォーカルにはロック的な要素があり、2022年には“ロックンロール・ホール・オブ・フェイム”への殿堂入りを果たした彼女だが、「ロックじゃないのに殿堂入りはおかしい!」という批判もあった。だったらロックをやってやる!と作ったのが『Rockstar』だったのだ(実際にはそれほど単純な話でもなかったようだが)。このアルバムで彼女はザ・ローリング・ストーンズの『(I Can’t Get No) Satisfaction』、ザ・ポリスの『Every Breath You Take』、プリンスの『Purple Rain』、レッド・ツェッペリンの『Stairway To Heaven』などをカヴァー。ポール・マッカートニー&リンゴ・スター、エルトン・ジョン、ジョン・フォガティ、ロブ・ハルフォード(ジューダス・プリースト)、マネスキンらがゲスト参加するなど、ドリーならではのゴージャスな作品となっていた。
パット・ブーンのヘヴィ・メタル転向?
大ベテランのアーティストが独自のスタイルでロック(特にハード・ロック&ヘヴィ・メタル)曲をカヴァーするというスタイルを確立させたのは、パット・ブーンの『In A Metal Mood: No More Mr. Guy』(1997)だろう。『Love Letters In The Sand』『Ain't That A Shame』など1950年代に活躍した彼がジューダス・プリースト、メタリカ、ガンズ&ローゼズなどの曲をビッグ・バンド・ジャズにアレンジした同作は好セールスを記録した。“真面目な”ヘヴィ・メタル信者から「神聖なるヘヴィ・メタルに土足で踏み込むな!」とバッシングもされたが、オジー・オズボーン一家のリアリティTV番組『オズボーンズ』オープニングに彼が歌う『Crazy Train』が使われたことで批判は収まった。ただその逆に、「悪魔の音楽を歌った」という理由でキリスト教系TV番組のパーソナリティを降板させられたりもした。
ポール・アンカのロック・スウィング・ジャズ
2005年にはポール・アンカがロック・カヴァー集『Rock Swings』を発表している。1950年代に『Diana』『You Are My Destiny』をヒットさせた彼がボン・ジョヴィ、R.E.M.、ヴァン・ヘイレン、ニルヴァーナ、サウンドガーデンなどの曲をスウィング・ジャズにアレンジして歌うこのアルバムはパット・ブーンほど“メタルvsビッグ・バンド”のギャップがドラスティックではなかったが、楽しめる作品で好評を得た。
ちなみに彼がカヴァーしたオアシスの『Wonderwall』は1995年、ザ・マイク・フラワーズ・ポップスがバート・バカラック風イージー・リスニング・アレンジで発表。オアシスのオリジナルと同じく全英チャート2位となっている。
なおポール・アンカの翌年、2006年にはポール・ヤングが同名のカヴァー集『Rock Swings』を発表している。彼は活動経歴的には“後輩”にあたるが、やはりスウィング・ジャズ・アレンジでソフト・セル、メタリカ、エミネム、デヴィッド・ボウイなどの楽曲を大胆にアレンジ、1980年代からのファンを驚かせた。
カーク船長もヘヴィ・メタル転向?
そして2026年、話題を呼んでいるのがウィリアム・シャトナーによるメタル・アルバムである。『スター・トレック』のカーク船長を演じた俳優の彼だが、これまで企画物で“宇宙ロック”カヴァー・アルバム、クリスマス・アルバム、ブルース・アルバムを発表しており、『What the F Is Heavy Metal』と仮題が付けられている本作は最新作となる。

筆者(山﨑)とのインタビューで「1930年代生まれの私にとって、ロックは自分より若い世代の音楽」と語っていたシャトナーにとって、このアルバムは「ヘヴィ・メタルを発見する作業」だったという。これまでにもリッチー・ブラックモア(元ディープ・パープル)と共演したことがあるが、今回はブラック・サバス、ジューダス・プリースト、アイアン・メイデンなどの楽曲をカヴァー。ロブ・ハルフォード、ザック・ワイルド、デイヴ・ロンバードというゲスト陣が参加しており、上記で紹介したような作品よりもヘヴィなサウンドになるかも。ただシャトナーは正統派のシンガーではなく、歌詞を“語る”タイプのため、オリジナルとはかなり異なったヴァージョンになることは間違いない。
シャトナーは2026年9月20日、シカゴの“ライオット・フェスト”に出演することも発表されている。95歳にしてヘヴィ・メタル転向を果たすシャトナーがどんなステージで魅せるか、興味が高まる。
山﨑智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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