
『プリーズ・リクエスト』(#032)と『ナイト・トレイン』(#068)に続いてオスカー・ピーターソン・トリオの登場です。
その2作に比べると、実はボクのなかでの本作への評価は、それほど高いものではありませんでした。
それが今回、オリジナルのLP盤にボーナス・トラックが追加された配信のヴァージョンで聴き直してみると、ボクが本作に触れた時期がリリースのタイミング(1961年)ではなく、20年も経ってからであったことが影響していたんだと気づくことになりました。
具体的には、ボーナス・トラックとして追加されていた(=オリジナルLP盤では除外された)曲の傾向がビバップ由来のもので、リリース時はポピュラリティを優先した構成だったことが関係しているのだ、と。
ポピュラリティは時代によって劇的に変化していくので「さもあらん」なのですが、オスカー・ピーターソン・トリオが本作で“トリオのなかのトリオ”すなわち“ザ”を冠された“トリオ”になった理由を、再考してみましょう。
I've Never Been In Love Before (Live)
アルバム概要
1961年に、米イリノイ州シカゴのジャズ・クラブ“ロンドン・ハウス”でのライヴを収録した作品です。
オリジナルはLP盤(A面3曲B面4曲の全7曲)でリリースされています。同曲数同曲順でCD化されたほか、ボーナス・トラック5曲を加えた12曲ヴァージョンがあります。
メンバーは、ピアノがオスカー・ピーターソン、ベースがレイ・ブラウン、ドラムスがエド・シグペン。
収録曲は、作者不明のトラディショナル・ソング『ビリー・ボーイ』、サックス奏者のベニー・ゴルソンが作曲した『ウィスパー・ノット』のほか、ジャズ・スタンダード・ナンバーが選ばれています(なお、ボーナス・トラックはオスカー・ピーターソン、レイ・ブラウン、ディジー・ガレスピー、クリフォード・ブラウンの手による曲もならんでいます)。
“名盤”の理由
本作の収録は、1961年7月28日と29日の2日間にわたって行なわれました。
オリジナルLP盤には7月28日のセッションから4曲、29日から3曲が選ばれたのですが、ボーナス・トラックがあることからもわかるように、このセッションではほかにも多くの曲が演奏されています。
そして、そのうちの5曲を収録した『サウンド・オブ・ザ・トリオ』が1962年に、同じく7曲を収録した『プット・オン・ア・ハッピー・フェイス』が1966年に、6曲を収録した『サムシング・ウォーム』が1967年に、それぞれリリースされました。
つまり、2日間のセッションで4枚ものアルバムを世に送り出せるほど濃密かつ高いクオリティのライヴ・レコーディングであったこと、その先陣を切るかたちでリリースされた作品であることが、本作を“名盤”として推すに足る理由だったと思われます。
いま聴くべきポイント
同じ1960年代初頭にモダン・ジャズの礎を築いたビル・エヴァンスではなく、オスカー・ピーターソン・トリオが“ザ・トリオ”と呼ばれる栄誉に浴しているのは、ひとえにオスカー・ピーターソンのピアノに溢れる明るさ=スウィング感を(主にアメリカの)リスナーが感じていたからだと思います。
クラシック・ピアノのようなかしこまったところがなく、かといってラグタイムやスウィング・ピアノのような流行遅れでもない……。
ジャズが多様化していった1960年代にニュー・クラシカルなスタンダード・スタイルとしてのピアノ・ジャズを展開できるテクニックとセンスが詰め込まれた本作は、“名盤”として聴き継がれることになった理由を解き明かす良いテキストになるのではないでしょうか。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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