
2015年のショパン国際コンクール第2位入賞から、早いもので11年。年齢も30代半ばに入り、今や若き巨匠の一人として世界的に活躍するカナダ出身のピアニスト、シャルル・リシャール=アムランのリサイタルを聴いた(2026年4月24日ヤマハホール)。
一筆書きのように紡がれた前半の5曲
当夜の前半は、ショパンのノクターン(夜想曲)第20番、第10番、第13番を並べ、その後にドビュッシー『月の光』、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番『月光』が続く、春の麗らかな夜にぴったりな好選曲。
ショパンの3曲では、彼の持ち味である透明度の高い音色と、立体的で抑制の効いた表現が秀逸。中でも、第10番の終結部へ向かう際に、5連符の揺れによって中間部の激しさを緩和してゆく橋渡しが、あまりにも美しく自然体だったのが素晴らしかった。

橋渡しという意味で、その後のドビュッシーとベートーヴェンも一筆書きのように紡がれ、まるでこの5曲が一つの作品であったような小宇宙を構築。
夜の静寂の中で心が波立つような中間部で、テンポを精妙に揺らすことで、作品全体から美しい潤いが失われることがなかった『月の光』。
第3楽章の第2主題に現れる目まぐるしい転調や、コーダでおよそ3オクターブも駆け上がるアルペッジョの嵐なども冷静に見通しよく弾き通してみせた『月光』。いずれもアムランの繊細で洗練されたピアニズムを存分に堪能させてくれた。

前半の“柔”から一転、後半は“剛”のドラマティックな表現で聴き手を魅了!
休憩を挟んだ後半は、ショパンのスケルツォ全4曲を演奏。曲名の「冗長」を大きく超えた劇的な表現と超絶技巧で編まれたこの難曲で、彼は前半の“柔”から一転。“剛”のドラマティックな表現で聴き手を魅了した。
第1番では、コーダの最後に両手で連打する密集和音を一音の乱れもなく完璧に彫琢。
第2番の音域の広いアルペッジョや跳躍も、輝かしい超絶技巧で一気呵成に駆け抜けてゆく。
第3番は、作曲者にはめずらしい10度の和音や両手のオクターブユニゾン主題が出てくるが、アムランは手が大きいこともあり、これらの難所を楽々と処理。
そして全4曲の中で最も難曲かつ傑作と言われる第4番でも、若き巨匠はメランコリックな曲想の中で跳ね回る和音や、何度も入れ替わるフレーズの対比を鮮やかに描出。その上で、スケルツォらしい高速の3 拍子の流れを徹頭徹尾キープしていたのが本当に素晴らしかった。

そんな名演に対する満場の大喝采に応えてのアンコールは、J.S.バッハ(コルトー編曲)『アリオーソ』、シューマン『ショパン』、ラヴェルのソナチネより第2楽章『メヌエット』、シューマン『告白』という盛り沢山な4曲。
333席の親密的な空間で音の細部まで全身で堪能できるヤマハホールに、この上なくふさわしい弾き手と選曲に酔いしれた至福のひとときだった。

渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。
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