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#088:ボーナス・テイクで露わになった“天才”の本領~バド・パウエル『ザ・ジニアス・オブ・バド・パウエル』編(ジャズの“名盤”ってナンだ?)

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ボクが本作を買って聴いたのは1980年代初頭。もちろんLP盤の時代です。

ターンテーブルにレコードをセットして針を落とすと、最初に流れてくるのがA面の1曲目『パリの目抜き通りで』で、ビバップ特有のゴツゴツとしたサウンドとはひと味違った、油絵の具を塗り重ねて光の揺らぎや空気の移ろいを描き出す印象派の絵画のようなサウンドに魅了され、「やっぱりバド・パウエルは“天才”といわれるだけあるな~」と認識するようになった次第。

ところが今回、改めて本作をCD化ヴァージョンに準拠した配信でチェックしてみると、なにやら印象が違うのです。

そうか、曲順が違うからかぁ~と思った直後、同じ曲の別テイクが3曲も続いているという“改編”にいささか困惑し、“名盤”として本稿で取り上げてよいものかどうか少々迷いました。

しかし、聴き返すほどに、「この“改編”があったからこその“名盤”なのだ!」との想いが強くなってきたのです。

そこで、その“改編”の概要を押さえつつ、なぜ「“改編”があったからこその“名盤”」なのかを考察します。

Tea For Two (Take 6)

アルバム概要

1950年と1951年、つまりバド・パウエルが精神的にも身体的にも充実していた時期に、米ニューヨークのスタジオでレコーディングされた作品です。

オリジナル(LP盤)は、まず『バド・パウエルズ・ムーズ』(A面5曲B面5曲の全10曲)というタイトルで1954年にリリースされ、2年後に『ザ・ジニアス・オブ・バド・パウエル』というタイトルに変更されました。さらに、収録曲『ティー・フォー・トゥー』の別テイク2曲を加えてCD化されています(1988年リリース、曲順は変更)。

余談ですが、本作とは別のセッションを収録して『バド・パウエルズ・ムーズ』と名付けてリリースされているアルバムや、別のシングルやアルバムと本作を組み合わせて『ザ・ジニアス・オブ・バド・パウエル』のタイトルでリリースされているアルバムもあります。

メンバーは、ピアノがバド・パウエル、ベースがレイ・ブラウン、ドラムスがバディ・リッチですが、トリオとピアノ・ソロのテイクが半々で構成されています。

収録曲は、ピアノ・ソロのテイクがバド・パウエルのオリジナル、トリオのテイクがジャズ・スタンダード・ナンバーというセレクションです。

“名盤”の理由

本連載で取り上げた『ジャズ・ジャイアント』(#063)とほぼ同時期のレコーディングで、コンディションの良い“天才=ジニアス”の圧倒的なプレイを記録した希少な内容であることが“名盤”の理由なのは間違いないでしょう。

ただ、ちょっと気になるのが、“余談ですが~”でも触れたように、本作(LP盤)のアルバムとしてのセールス・ポイントが(タイトルを変更したり、同名異種のアルバムがあったりと)二転三転しているように感じられる点。

別テイクを収録した『バド・パウエルズ・ムーズ』を聴いてみると、本作よりも録音状態が良くて甲乙つけがたいところなのですが、“ジャズ史に残る名盤”となると、やっぱり本作だと思わせるものが本作(CDヴァージョン)にはあるのです。

それはなにかと言えば、(最初はボクをいささか困惑させた“改編”によって)『ティー・フォー・トゥー』がテイク違いで3曲も入っていることにほかなりません。

いま聴くべきポイント

前述のとおり、このボーナス・テイクは1988年のCD化の際に追加されたもので、曲順も『ティー・フォー・トゥー』3曲(1曲目がボーナスのテイク5、2曲目がLP盤収録のテイク6、3曲目がボーナスのテイク10)が冒頭を飾るという、まさに『ティー・フォー・トゥー』にフォーカスした構成に変更して世に送り出されました。

改めてこの3テイクを聴き比べてみると、本テイク(=テイク6)はトリオのバランスを意識してバド・パウエルが自分のプレイをセーヴしている(あるいはそうするようにプロデューサーのノーマン・グランツからリクエストされた)のではないかと思えるほど、ボーナス・テイクでの音数とスピード感が違うのです。

この『ティー・フォー・トゥー』、LP盤ではB面1曲目という“ジャズ・マニア向けのイチ推しポジション”に置かれていたことから推察すると、アルバムとしてのバランスをとることに苦慮したレコード会社側の判断がうかがえ、前述のアルバム・タイトルに関する紆余曲折にもつながっていったのではないかと思います。

しかし、どういう背景があったにせよ、こんなふうにテイクを重ねてくれたことによって、ボクたちはいま、この“天才”のスゴさを改めて認識することができるわけなのです。

「ジャズの“名盤”ってナンだ?」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ/富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

文/ 富澤えいち

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
2026.07.14
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