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アーケイド・ファイア、『Pink Elephant』で迎えた試練と復活への道

アーケイド・ファイア、『Pink Elephant』で迎えた試練と復活への道

アーケイド・ファイアの成功は、21世紀ロックにおける最大のサクセス・ストーリーのひとつだった。2001年、カナダのモントリオールで結成した彼らはファースト・アルバム『Funeral』(2004)で一躍ブレイク。後続のアルバムも本国カナダはもちろんアメリカ、イギリス、ヨーロッパ、そして日本で人気を獲得、ヒットを記録している。 だが、最新作『Pink Elephant』で彼らの活動は急激に失速する。2025年5月に発売された通算7作目のアルバムだが、米“ビルボード”誌のチャートでトップ200に入らず。日本盤CDは発売されなかった(輸入盤・デジタルのみ)。彼らに何があったのか?

デビューから世界制圧への道

アーケイド・ファイアはシンガーでマルチ・インストゥルメンタリストのウィン・バトラーを中心に結成された。2003年のデビューEP『Arcade Fire』が北米のインディーズで注目されたのを経て、初のフルレンス・アルバム『Funeral』を発表。アートな色彩を持つインディーズ・ロックが“ピッチフォーク”などの音楽メディアで絶賛されたのに加え、デヴィッド・ボウイらもお気に入りのバンドに挙げたことで、ちょっとうるさい層のリスナーへと支持が広がっていった。
さらに彼らは各国のテレビやラジオに出演してお茶の間にも進出。また精力的なライヴ活動でその人気の裾野を広げていく。2004年、カナダとアメリカを重点的にサーキットした彼らだが、2005年3月からヨーロッパ戦線へと出陣。同年8月の“SUMMER SONIC”フェスで初来日ライヴが実現している。筆者(山﨑)はこのとき別ステージでディープ・パープル〜スリップノット〜ナイン・インチ・ネイルズを見ていたためこのステージは見逃したが、同月末の英国“レディング・フェスティバル”で見ることができた。イギリスのファンも凄まじい盛り上がりで、ロックの新しいヒーローが登場したことを予見させた。
それから彼らはトップ・バンドとして大躍進を続ける。『Neon Bible』(2007)『The Suburbs』(2010)『Reflektor』(2013)『Everything Now』(2017)はいずれもカナダ・米・英のヒット・チャートで1〜2位とトップに君臨。日本でも2008年の来日公演を経て、2014年の“フジ・ロック・フェスティバル”にヘッドライナーとして出演している。3日間のフェスで最多観客動員となることが多い土曜日のトリとして、彼らは堂々たるステージを見せつけた。
コロナ禍の最中に作られた『We』(2022)はカナダとアメリカで1位は逃したものの、チャートの上位を確保。イギリスでは定位置であるナンバー1の座をキープした。

事件の余波と現状

バンドの勢いに突然のブレーキがかかるのが『We』発売直後の2022年8月、ウィンが複数のファンと不適切な性的関係を持った件が報道されたことだった。音楽そのものとは関係なくとも、彼の奥方であるレジーヌ・シャサーニュがバンドの一員で、おしどり夫婦ぶりをアピールしていたことから、かなりのイメージダウンがあったことは想像に難くない。また、この事件(2016年から2020年にかけてらしい)を記事にしたのが、ファーストのころから彼らをプッシュしてきた“ピッチフォーク”だったことも驚きだった。告発した側だけでなくウィンのステートメントも掲載、両者の言い分のバランスを取っていたものの、2022年といえば“ミー・トゥー”ムーヴメントが幅広く認知されるようになった時期。“ウォーク”(意識の高い)な音楽ファンから支持されているメディアの“ピッチフォーク”が大きく扱うのは仕方のないことだっただろう。
この事件のせいでアーケイド・ファイアが業界的に干されたわけではなかった。2025年、『Pink Elephant』と題された新作アルバムのリリースに合わせて、彼らは『サタデー・ナイト・ライヴ』『トゥナイト・ショー』などの人気テレビ番組にも出演している。
この新作が“ビルボード”チャートでトップ200に入らなかったのは、ライト層に届かなかったことが原因のひとつだったと考えられる。事件の余波もあり、インタビューなどはほとんど行うことがなく、メディアへの露出は大幅に減少。音楽を配信/ストリーミングで聴くことが主流である昨今、「ちょっと聴いてみよう」という層に届くことがなかった。
ただ、以前からの熱心なファンが離れたわけではない。『Pink Elephant』はフィジカル(CD/LP)の“アルバム・セールス”チャートでは10位にランクイン。全米で6,200枚というのは一昔の感覚でいうと決して多いようには見えないが、現代においては少なくない数字である。また、本作は“ロック&オルタナティヴ”チャートにもエントリーするなど、根強いファンに支えられていることが判る。加えてイギリスを含むヨーロッパ市場ではヒット・チャートの上位に入っており、むしろアメリカ市場での状況が不思議に思えるほどだ。
さらに言えば、『Pink Elephant』はアーケイド・ファイアの輝かしい軌跡の最新章に相応しい楽曲に溢れるアルバムだ。シングル・ヒットを狙える“飛び道具”こそ少なめではあるものの、『Year Of The Snake』『Pink Elephant』といったリーダー・トラック、そしてエレクトロ・ダンス的な『Circle Of Trust』、反復フレーズが余韻を残すラスト『Stuck In My Head』など、いずれの曲も個性と魅力を放っている。『We』を最後にウィンの弟でキーボード、ベース他を担当していたウィル・バトラーが脱退したが、その穴は感じさせない。
プロデューサーにダニエル・ラノワを迎えたことで、音空間に奥行きと幅が生まれていることも特筆すべきだろう。ボブ・ディラン、ニール・ヤング、U2などを手がけてきた大物の彼だが、本作で起用されたのはブライアン・イーノとの作業によるものが小さくないだろう。なおバンドはそんな作風を一歩押し進め、本作を全編アンビエント・リミックスしたアルバム『Open Your Heart Or Die Trying』(2026)も発表している。
2025年10月にウィンとレジーヌが別離するなど、事件の余波が続く中、アーケイド・ファイアはどんな方向に進み、どんな音楽を生み出していくだろうか。彼らの動向にこれからも注目したい。

Arcade Fire - Year of the Snake (Official Video)

■アルバム『Pink Elephant』

発売元:Columbia
発売日:現在発売中

詳細はこちら

文/ 山﨑智之

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
2026.06.22
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