
バイオリニストとしてはもちろん、近年は指揮者や音楽祭のプロデュースなど、世界で多岐に渡って活躍する俊才・三浦文彰と、同じく世界的な実力派ピアニストとして名高い清水和音。二人の名手ががっぷり四つに組み合って繰り広げた珠玉のオール・シューベルト・プログラムを聴いた。 (2026年1月24日:銀座ヤマハホール)
親密に成熟した二人のソナチネ
この日の幕開けに選ばれたのは、全3曲からなるソナチネ。ソナチネは「小さなソナタ」を意味し、バイオリンの名手だった作曲者が気心の知れた仲間たちと交歓するために書かれたに違いない歌心や機知を平明に楽しめる名曲の一つになっている。
ちなみに三浦と清水の初共演は2021年に開催された東芝グランドコンサートのガラ・コンサートに遡るが、この時もソナチネ第2番を取り上げていた。
それから5年あまり、より深く親密に成熟した二人の掛け合いは、まるで自然体の対話を聴くように、どこまでも美しく麗らかに流れてゆく。第1番・第2楽章の中間部で見せた憂愁の美や、第2番・第2楽章でバイオリンの静謐な悲しみにそっと温かく寄り添うピアノ。そして、第3番の第3〜4楽章で彼が紡いだ無邪気な笑い声のように心地よい歌の数々は、いずれも秀逸だった。

精妙さと華々しさが絶妙にバランスしたシューベルトの真髄!
後半の演目は、『バイオリンとピアノのための二重奏曲』。前曲のソナチネと同じく作曲者の初期作品の一つだが、4つの楽章に複雑な転調を織り込むなど、若き日の創作意欲が存分に発揮されているのが特長だ。
第1楽章では、三浦の流麗な歌い回しがホールの隅々まで充満。彼が23年から使用している名器グァルネリ・デル・ジェス「カストン」の凄みを改めて堪能した。

続く第2楽章では軽妙かつ華々しい丁々発止を繰り広げ、第3楽章のエンハーモニックな転調の難所でも精確極まりない音程を貫いてみせた二人の妙技に感嘆。
そして第4楽章の大団円でさらに研ぎ澄まされた超絶技巧とアンサンブルの数々。こうした名演を、木の温もりにあふれた極上の音響空間で味わい、さらにアンコールのクライスラー『愛の喜び』も加わって締め括れたことは、あまりにも贅沢で、至福の一言に尽きた。

渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。
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