
ケン・ラッセル(1927 – 2011)が監督した映画作品8作の音楽をコレクションしたアルバム『Ken Russell The Music Lover - Music And Images - The Art Of Britain’s Greatest Filmmaker』が2026年6月にリリースされる。
映画界の異端児と呼ばれ、『肉体の悪魔』(1971)『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』(1979)『ゴシック』(1986)などで“鬼才/奇才”の名を欲しいままにしたラッセルだが、その作品においてしばしば音楽が重要な位置を占めてきた。ザ・フーのロック・オペラを映像化した『Tommy/トミー』(1975)や作曲家のフランツ・リストを題材にした『リストマニア』(1976)、チャイコフスキーを描いた『恋人たちの曲/悲愴』(1970)、マーラーについての『マーラー』(1974)など、いずれも音楽を独自解釈、彼ならではの映画作品に昇華させている。
リック・ウェイクマン(元イエス)が語るケン・ラッセル
イエスのキーボード奏者だったリック・ウェイクマンは『リストマニア』と『クライム・オブ・パッション』(1984)という2作のラッセル監督作品で音楽を担当しているが、筆者(山﨑)とのインタビューで、彼をこう評している。
「ケンは音楽をよく知っていた。彼自身、チェロを弾いていたしね。決して巧くはなかったけど(笑)。オーケストラの楽器すべてを理解していたし、多くのミュージシャン以上に音楽というものを判っていたよ」
ちなみに『クライム・オブ・パッション』でラッセルは各登場人物を表現する音楽としてドヴォルザークの『新世界より』をモチーフにして欲しいと依頼、キャサリン・ターナーのテーマに『家路』を使いたいと主張したが、ウェイクマンが「その曲は食パンのTVCMで使われているからよした方がいい」と助言したこともあったという。
初音盤化トラックが大半のCDコンピレーション
『Ken Russell The Music Lover』に収録されるのは、8作品の映画音楽だ。3枚組CDに『エルガー~ある作曲家の肖像~』(1962)、『ドビュッシー・フィルム』(1965)、『ダンテの地獄』(1967)、『ソング・オブ・サマー』(1968)、『狂えるメサイア』(1972)、『恋する女たち』(1969)、『恋人たちの曲/悲愴』、『マーラー』からの音楽が収録されており、映画サウンドトラック・アルバムとしては初めての音盤化となる。エルガーやドビュッシーなど作曲家たちを俳優が演じる映画・TV映画があるのも興味深い(ドビュッシーを演じるオリヴァー・リードは『恋する女たち』で男同士の全裸レスリング、『肉体の悪魔』では魔女裁判で火あぶりになるなど、ラッセル作品に頻繁に出演している)が、まったく映画を観たことがなくともクラシックのCDコンピレーションとして楽しむことが可能だ。
なお『マーラー』の映画本編で使われたのはベルナルド・ハイティンク指揮、アムステルダム・コンセルトヘボー・オーケストラ演奏による音源で、オリジナル・サウンドトラックがレコード化されたが、本ボックスに収録されたのは同じ曲の“別ヴァージョン”。ただレナード・バーンスタインやブルーノ・ワルターが指揮、ロンドン・シンフォニー・オーケストラやニューヨーク・フィルハーモニックらの演奏は文句なしの素晴らしい演奏だ。
さまざまな音楽スタイルと関わりが深かった映画監督
『Ken Russell The Music Lover』を聴いて、ラッセルの映画における音楽世界をさらに掘り下げたいリスナーにオススメしたいのがピーター・マックスウェル・デイヴィスの作品集『The Devils / The Boyfriend / Seven In Nomine』だ。1990年に発表されたこのCDにはラッセル監督の『肉体の悪魔』『ボーイフレンド』(1971)の2作からの音楽、そしてジョン・タヴァナーの曲を発展させた『Seven In Nomine』が収録されている(こちらはラッセルと直接関係なし)。いずれもニコラス・クレオベリーが指揮、アンサンブル“アクエリアス”が演奏、1989年に新たにレコーディングされた音源だが、映画2作で聴かれるものにかなり近いヴァージョンになっている。
自らはクラシック音楽を愛聴していたというラッセルだったが、そのカウンターカルチャー的な作風ゆえにザ・フーとの交流があり、『アルタード・ステーツ』で現代音楽の作曲家ジョン・コリリアーノ、『ゴシック』でエレクトロ・ポップのアーティスト、トーマス・ドルビーを起用するなど、ポピュラー/ロックとも関わりが深かった。そんな中で残念ながら実現しなかったのがスイスのヘヴィ・メタル・バンド、ケルティック・フロストの音楽提供だった。
バンドのトム・G・ウォリアーが筆者に語ったところによると、彼はラッセルの息子ザヴィエルと長い友達で、それが縁で『白蛇伝説』(1988)のサウンドトラックの一部を書くことになっていたという。ただケルティック・フロストはレコード会社とのトラブルで14か月のあいだ活動を凍結、参加することができなかった。そのとき映画用に書いた音楽は“実験的”なもので、正式にレコーディングするには至らなかったが、ウォリアーは「今からでも、頭の中に残っている部分をレコーディングしたら面白いかもね」と語っていた。
没後15年を経ながら、今日でも敬愛され続けるラッセルの映画作品は、音楽に彩られることで、異なった輝きを放つのである。
■アルバム『Ken Russell The Music Lover - Music And Images - The Art Of Britain's Greatest Filmmaker』

発売元:Cherry Red Records
発売日:2026年6月26日
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