
1962年制作のライヴ・アルバム『フル・ハウス』(#007参照)でも共演していたウェス・モンゴメリーとウィントン・ケリー・トリオによるダブルネームの作品です。
本稿ではこれまで、3作のウェス・モンゴメリー名義の“名盤”を取り上げました。
“(ジャンゴ・ラインハルト以来の)ジャズ・ギターの本流を継承する逸材”としての地位を『インクレディブル・ジャズ・ギター』(#018)で築き、“ハード・バップの波”を堂々と泳ぎ切るライヴ感をもった演奏家であることを『フル・ハウス』で証明、激変する音楽シーンにも適応できるポップなセンスを『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』(#042)で発揮──という“ジャズ・シーンとの関係性”を再考できたのが、ウェス・モンゴメリーの生み出した“名盤”だったことになります。
『フル・ハウス』(1962年)と『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』(1967年)のあいだに位置する本作については、『フル・ハウス』の延長線上にあって、よりライヴ感を増した演奏サイドの記録としての意味合いの強い“名盤”だと認識していました。
要するに、企画色の強い『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』(を含むCTIレコードの一連の作品)に突入する前に、“信じられないほどすばらしい(=incredible)”と評されたジャズ・ギターの腕前を存分に発揮したからこその“名盤”である、と。
今回、本作の成り立ちや、オリジナルには収録されなかったライヴのテイクなどを整理しながら聴き直してみると、どうやらライヴ一発で成功しただけの“名盤”ではなかったようなので、そのあたりをまとめてみたいと思います。
No Blues (Live At The Half Note, 1965)
アルバム概要
1965年に米ニューヨークのジャズクラブ“ハーフ・ノート”でライヴ・レコーディングされた2曲と、同年に米ニュージャージー州のヴァン・ゲルダー・スタジオでレコーディングされた3曲をカップリングした作品です。
オリジナルはLP盤(A面2曲B面3曲の全5曲)でリリースされています。同曲数同曲順でCD化されたほかに、カセットテープ・ヴァージョン、“ハーフ・ノート”でのライヴを追加収録した全11曲ヴァージョンがあります。
メンバーは、エレクトリック・ギターがウェス・モンゴメリー、ピアノがウィントン・ケリー、ベースがポール・チェンバース、ドラムスがジミー・コブ。
全5曲は、ジャズ・スタンダード・ナンバーが2曲に、マイルス・デイヴィス名義の1曲、ベーシストのサム・ジョーンズ作の1曲、ウェス・モンゴメリー作の1曲という構成です。
“名盤”の理由
オリジナルのLP盤では、A面がジャズクラブ“ハーフ・ノート”でのライヴのテイク、B面がスタジオで収録したテイクになっています。
これについては、「ライヴのほかのテイクになんらかの支障があったため、“間に合わせ的に”B面分の曲をスタジオで録り直してリリースにこぎ着けたのだろう」という邪推をボクはしていました。
ただ、そんな邪推を吹き飛ばすほどA面の2曲が圧倒的なので、“名盤”とすることに異論が出なかったのだと思います。
いま聴くべきポイント
ところが今回、本作の周辺を改めて調べてみたところ、ジャズクラブ“ハーフ・ノート”でのライヴの本作未収録曲がLP盤時代に製品化されていたことを知りました。
その経緯から考えると、本作は“ライヴ一発で大成功”という類いの偶然の産物ではなく、“ウェス・モンゴメリー&ウィントン・ケリー・プロジェクト”とも呼ぶべきものだったことが浮かび上がってきました。
本作のプロデュースを担当したのは、のちにウェス・モンゴメリーを“ポップ・インストゥルメンタル”の世界へ引き込んだクリード・テイラー。
その彼が、A面はジャズクラブ“ハーフ・ノート”でのライヴ2曲にして、B面の3曲をスタジオで録り直すように指示したのだと言われています。
そしてそれは、ライヴでのほかの曲がボツ(NGテイク)だったからではないことがうかがえるのです。
その理由としてあげられるのが未収録のライヴ・テイクで構成された作品の存在で、『ウィロー・ウィープ・フォー・ミー』のタイトルで1968年にリリースされています(全7曲、A面4曲B面3曲)。
1968年というのは、6月にウェス・モンゴメリーが45歳で急逝した年でした。
年末にリリースされた『ウィロー・ウィープ・フォー・ミー』は、翌年のアルバム・チャート12位を記録するヒット作となり、翌々年の1970年には最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門でクラミー賞を受賞しています。
つまり、ジャズクラブ“ハーフ・ノート”でのライヴの残りはボツ(NGテイク)になるようなものではなかったわけです。
『ウィロー・ウィープ・フォー・ミー』に収録されている曲は、編曲家のクラウス・オガーマンによるストリングスとホーンがオーヴァーダビングされており、当時評判となっていた“ポップ・インストゥルメンタル”な路線を引き継いだ内容だったことも、ヒットの要因だと思います。
ちなみに、オーヴァーダビングされていないライヴのテイクは現在、前述した本作の全11曲ヴァージョンとして聴くことができます。
全5曲のオリジナルではなく、改めて全11曲ヴァージョンを聴いてみると、このライヴセッション自体、クリード・テイラーが“ウィズ・ストリングス”として使えるように目論んだものなのではないかという想いが強くなってきました。
というのも、『ウィロー・ウィープ・フォー・ミー』と重複する曲のうちオーヴァーダビング処理がされているものは、ライヴでの“隙間”が多くあるように感じられ、プロデューサーからミュージシャンに対して「あまり音を詰め込まないように」という指示があったのではないかと思われるのです。
もちろん、そう言われても、いざ本番が始まれば言われたとおりにはいかないのが世の常です。
おそらくメンバーが乗ってきたセットの終盤で演奏された2曲は、音が詰め込まれた“熱演”になってしまい、指示を出していたクリード・テイラーも、“熱演”は“熱演”として「売れる!」と判断。ポップ・インストゥルメンタルな路線への試行をひとまず置いて、スタジオ収録を追加したアルバムをリリースすることにした──というあたりが、本作のバック・ストーリーなのではないかと推察したわけです。
全11曲ヴァージョンでは、ウェス・モンゴメリーとウィントン・ケリーが繰り出す必要最小限のバッキングも聴きどころとなっています。
また、ジョン・コルトレーンの『インプレッションズ』を取り上げているところも聴き逃せないポイント。
興味が湧いたら、オリジナル全5曲ヴァージョンと全11曲ヴァージョン、オーヴァーダビングのある『ウィロー・ウィープ・フォー・ミー』などを聴き比べてみると、本作の“名盤”たる魅力がもっと増してくると思いますよ。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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