
伝統楽器「三線(さんしん)」による多様な広がりの沖縄音楽を初めて網羅的に集中して聴いた。2026年3月28日、ヤマハホール(東京・銀座)での沖縄三線文化継承プロジェクトのレクチャーコンサート「しまの音 -研究と演奏でひもとく、三線の未来-」だ。第1部は伝統継承への課題や共同研究の取り組みが発表された。第2部は琉球古典音楽から沖永良部民謡、八重山古謡まで、南西諸島に多様に広がる沖縄音楽を堪能する至福の時間となった。
日本の音楽文化の多様性
三線と歌を中心にした沖縄の伝統音楽を聴くと、日本が領海と排他的経済水域(EEZ)を含め世界6位の海洋大国であることを実感する。同時に、長大な日本列島の多様で豊かな地方文化の存在に改めて自信と誇りと親しみを持つ人も多いはずだ。第1部では沖縄県三線製作事業協同組合の仲嶺幹事務局長、沖縄県立芸術大学の遠藤美奈准教授、琉球大学の山田典子特命准教授らが三線を取り巻く状況や研究内容を説明した。

(上段左)沖縄県三線製作事業協同組合 事務局長 仲嶺幹氏(上段右)沖縄県立芸術大学 准教授 遠藤美奈氏
(下段中央)琉球大学 特命准教授 山田典子氏
三線は明(中国)との貿易を通じて伝来し、琉球王国の士族の教養の一つとなり、独自の発展を遂げた。琉球処分(王国の廃止と廃藩置県)後は一般にも広がり、沖縄文化のアイデンティティとして今日に至る。同県では3世帯に2世帯が三線を保有している。一方、職人の後継者不足や伝統的な材である黒檀の枯渇という課題もある。そこで三線組合と両大学、ヤマハが参加し、東京文化財研究所がアドバイザーとなり、科学的な視点で三線の特性を解明するプロジェクトが発足。一環として今回のレクチャーコンサートが開かれた。
第2部のコンサートでは、具体的にどのような材質や特徴の三線を弾くかといった説明もあり、学究的にも音楽への理解を深められる工夫をしていた。まず「琉球古典音楽」の部では、親川遥の歌と三線で『独唱 赤田風節』が披露された。ナイロン弦の柔らかい音色の三線で、極めて短い歌詞をメリスマ(1音節に複数の音を割り当てる技法)で大らかに歌った。次に新垣俊道の歌と三線で『独唱 仲風節(二揚)』。こちらは絹絃とのことで、力強く明るい音色を感じた。

歌と三線の単旋律が同時進行
歌と三線の演奏をじっくり聴くのは初めての体験だったが、2人の演奏を聴いて改めて気付いたのは、三線が基本的に単音しか鳴らさないことだ。歌と三線の単旋律が同時進行していく音楽はポリフォニー(多声音楽)と思えるが、双方の旋律が絡み合うわけではない。かといって和音の伴奏に乗ったホモフォニー(和声音楽)でもない。だが主旋律は歌であり、三線のオスティナート(繰り返し)は伴奏だ。ギターのリフに乗って歌うロックに近いか。歌と三線が似通った旋律をずらして進む点ではヘテロフォニー(異音合奏)といえる。
新垣と親川の歌と三線に山里静香の舞踊が加わった『舞踊 稲まづん』ではさらに三線音楽の特徴がはっきりと聴き取れた。男女で歌う場合には、歌は1オクターブの音程差はあってもユニゾン(斉唱)のみであり、三線の旋律も聴いた限りではすべてユニゾン(斉奏)だった。三線と歌によるそれぞれ同じ旋律のみで、倍音の広がりとともにこれだけ豊かな舞踊音楽を奏でることができる。なんと洗練された高貴な宮廷音楽だろうか。

続いて「沖縄民謡」の部となり、仲宗根創の歌と三線で『廃藩ぬ武士(はいばんぬさむれー)』。歌詞にある「片結(かたかしら)」は琉球の武士が結っていた髪型のこと。没落した元士族の悲哀を歌った。次の『懐かしき故郷』とともに民謡となると、だいぶ聴き慣れた印象になる。三線のオスティナートも一段と親しみやすい。さらに『ひやみかち節』では豊里美保の太鼓も加わり、豊里のハリのある合いの手の女声はいよいよ沖縄のイメージと合致し始める。筆者の世代では沖縄音楽は坂本龍一や細野晴臣らのYMOと結びつきやすいのだ。

沖永良部島に残る三線文化
興味深いのは南西諸島の広範囲に三線の音楽文化が残っていることだ。その一つが鹿児島県奄美諸島の沖永良部島。「沖永良部民謡」の部では前田博美の歌と三線で『子守唄』『いちきゃ節』が披露された。落ち着いてしっとりとした歌いぶりが印象的だった。豊里の太鼓も入っての『サイサイ節』『永良部百合の花』は、ノリが良いだけでなく、しなやかさと大らかさがある。それぞれの島に独自の三線文化が息づいていることに気付かされた。

最後の「八重山古典民謡・古謡」の部も充実していた。小渡大海と豊里の歌と三線に新垣の笛が加わって『赤馬節』。高音域まで伸び伸びとハリのある声でユニゾンを続ける男声と女声、高音域で旋律を吹き続ける笛が相まって、独特の情趣を醸し出す。『まへーらつぃ節・とーすぃ』では山里の舞踊も入り、緩やかな曲調からリズムが変わる後半へと意表を突く舞踊音楽を聴かせた。

トリの『とぅばらーま』は八重山民謡の最高の叙情歌といわれ、1947年以来、毎年旧暦8月13日に石垣市で「とぅばらーま大会」が開かれている。小渡は2025年度の優勝者であり、豊里の囃子、新垣の笛とともに当代最高の「とぅばらーま」を披露した。

アンコールというか、コンサートの締めは出演者全員で新民謡『安里屋ユンタ』(星克作詞・ 宮良長包作曲)の合奏と合唱。筆者はこの曲を細野晴臣&イエロー・マジック・バンドのアルバム「はらいそ」(1978年)や坂本龍一のアルバム「ビューティ(Beauty)」(1989年)で聴いたのだった。半世紀近くも前から沖縄音楽に着目していた細野や坂本の先見性を思い知る。日本文化の豊かな多様性を未来に継承していく大切さを三線のコンサートは教えてくれた。

池上輝彦〔いけがみ・てるひこ〕
音楽ライター。日本経済新聞社シニアメディアプロデューサー兼日経広告研究所研究員。早稲田大学商学部卒。証券部・産業部記者を経て欧州総局フランクフルト支局長、文化部編集委員、映像報道部シニア・エディターを歴任。音楽レビュー、映像付き音楽連載記事「ビジュアル音楽堂」などを執筆。クラシック音楽専門誌での批評、CDライナーノーツ、公演プログラムノートの執筆も手掛ける。日経文化事業情報サイト「art NIKKEI」にて「聴きたくなる音楽いい話」を連載中。
日本経済新聞社記者紹介
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