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#83:1950年代末のジャズの変容期を反映した“味変”を楽しむ~キャノンボール・アダレイ『キャノンボール・アダレイ・イン・シカゴ』編 (ジャズの“名盤”ってナンだ?)

#83:1950年代末のジャズの変容期を反映した“味変”を楽しむ~キャノンボール・アダレイ『キャノンボール・アダレイ・イン・シカゴ』編 (ジャズの“名盤”ってナンだ?)

本作のアルバム・タイトル、日本では“キャノンボール・アダレイ・イン・シカゴ”と表記されますが、英語のオリジナルでは“キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ”となっています。

日本語表記にする際に省略したり縮めたりするのはよくあることなのですが、本作の場合、後の1960年代に弟のナット・アダレイが参加してヒット作を連発したクインテットがあり、それとの混同を避けるためと、「キャノンボール・アダレイのリーダー・クインテットの作品と呼んでいいのか?」という内容だと感じる人が多かったために、特に日本では“キャノンボール・アダレイ・イン・シカゴ”というタイトルが用いられ続けているのではないかと推測しています。

“特に日本では”としましたが、実は海外でも、1961年にフランスでリリースされたLP盤では“Cannonball Et Coltrane”つまり“キャノンボール&コルトレーン”とタイトルを変えていて、1964年にアメリカ国内で再発されたLP盤でも“キャノンボール&コルトレーン”が用いられていました。

“名盤”なのに、誰のアルバムなのかが曖昧なのってどうなの?──という問題を掘り下げてみましょう。

Wabash

アルバム概要

1959年2月に米イリノイ州シカゴのユニバーサル・レコーディングスタジオで収録された作品です。

オリジナルはLP盤(A面3曲B面3曲の全6曲)でリリースされています(ステレオ・ヴァージョンとモノラル・ヴァージョンあり)。同曲数同曲順でCD化されたほか、前述のとおりアルバム・タイトルを『キャノンボール&コルトレーン』に変更して同曲数同曲順でリリースされたLPとCD、カセットテープ、8トラック・カートリッジ・テープのヴァージョンがあります。

メンバーは、アルト・サックスがキャノンボール・アダレイ、テナー・サックスがジョン・コルトレーン、ピアノがウィントン・ケリー、ベースがポール・チェンバース、ドラムスがジミー・コブ。

収録曲は、ジャズ・スタンダード・ナンバーのカヴァーが3曲、キャノンボール・アダレイのオリジナルが1曲、ジョン・コルトレーンのオリジナルが2曲という構成です。

“名盤”の理由

“誰のアルバムかが曖昧”という問題の背景には、本作と同時期に制作されたエポックメイキングなふたつの作品が関係しているのではないか──とボクは考えています。

ひとつ目は、1959年5月および12月にレコーディングされた『ジャイアント・ステップス』。リーダーはジョン・コルトレーンで、ポール・チェンバースとジミー・コブも参加しています。

ふたつ目は、同年3月および4月にレコーディングされたマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』。こちらはキャノンボール・アダレイ、ジョン・コルトレーン、ポール・チェンバース、ジミー・コブの名が重複しています。

2作とも、1950年代ジャズの中心的推進力だったハード・バップがぶち当たっていた壁を突き破るコンセプトを具現して、来たるべき1960年代の“新たなジャズの姿”を示したとして評価されています。

『ジャイアント・ステップス』のオリジナル・リリースは1960年2月、『カインド・オブ・ブルー』は1959年8月リリースと、いずれも本作(1960年8月リリース)を追い越すかたちで世に送り出され、注目を浴びていたはずです。

そんな状況で、メンバーがダブっている本作をどう売り出そうか……。リリースのタイミングが微妙に遅れたところに、レコード会社の“逡巡”を感じることができるのではないでしょうか。

とはいえ、バリバリと明快に吹きまくるキャノンボール・アダレイ、それに引きずられるかのようにバトルを展開するジョン・コルトレーン、バックを務めるのは1950年代のジャズを象徴するマイルス・デイヴィスの“黄金のクインテット”のリズムセクション──というラインナップで、その名に恥じない好演を繰り広げる内容であることから、当然のようにボツにはならず、“名盤”の仲間入りを果たしていまに至る、ということになります。

いま聴くべきポイント

当然のようにボツにはならなかったものの、前述のようにアルバム・タイトルが変更された経緯からも推測されるのが、本作に漂う二面性です。

LP盤だとわかりやすいのですが、A面収録の3曲とB面収録の3曲は、まるで違うアルバムをカップリングしたかのような内容で、キャノンボール・アダレイとジョン・コルトレーンのどちらのリーダー作としても売り出せるような“戦略”を最初から立てて、マーケットの様子見をしていたのではないかと思うのです。

最終的には、キャノンボール・アダレイが1958年に制作していた『サムシン・エルス』(リリースも同年)の“実績”を優先して、彼のリーダー作として落ち着いたのではないか、と。

まあ、そんな“名義問題”よりも肝心なのは中身ですから、アルバムの内容について触れておきたいと思います。

A面収録の3曲(CDでは1~3)は、キャノンボール・アダレイをメインとしてハード・バップとバラードを組み合わせた“わかりやすい”内容で、締め括りの3曲目『ワバッシュ』がキャノンボール・アダレイのオリジナルであることからも、彼を軸として録音に臨んだことが伝わります。

それに対してB面収録の3曲(CDでは4~6)は、ジョン・コルトレーンのオリジナル2曲というフィーチャーぶりで、サウンドの趣にも変化が感じられるのです。

カヴァー曲のバラード『ユーアー・ア・ウィーヴァー・オブ・ドリームス』はジョン・コルトレーンのクァルテットで演奏され、A面側のバラード『アラバマに星墜ちて』がキャノンボール・アダレイによるクァルテットで演奏されているのと対照的になっています。

また、ラストを飾る『ザ・スリーパー』は、ブルースのコード進行でありながら、その制約から外れようとする勢い、すなわち『カインド・オブ・ブルー』や『ジャイアント・ステップス』に通じる“匂い”を感じさせます。

つまり本作は、“誰のアルバムかが曖昧”でありながら、だからこそジャズの歴史的なエポックの要素を取り込むことができ、その結果、“ジャズの味変”を1枚で楽しめることになった、という“名盤”なのです。

「ジャズの“名盤”ってナンだ?」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ/富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

文/ 富澤えいち

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2026.04.16
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