
フラメンコギタリスト・沖仁とクラシックギタリスト・鈴木大介のギターコンサートが2026年3月6日にヤマハホールで行われた。ゲストは尺八奏者の藤原道山である。3人とも積極的にコラボレーションを続けてきた演奏家だが、意外にも沖と道山は初顔合わせ、つまり3人の演奏は初めてだった!
色彩豊かなサウンドでさまざまな世界を描く2本のギター
プログラムは、沖のソロ→鈴木のソロ→沖と鈴木のデュオ→道山が加わってトリオという流れで、「休憩なし」のノンストップ進行。さて、どんな演奏に……と興味津々で耳を傾けていたら、色彩豊かなナチュラルサウンドのオーケストレーションが広がっていくのでビックリ。音楽の自然な姿に遭遇でき、至福のひとときを味わえた。
沖のソロは『メルチョールの家』から。ボディを叩いたり、弦をかき鳴らすラスゲアードなど、フラメンコの奏法満載のオリジナル。続く『エスペランド』はトレモロの叙情的な旋律が心にしみる。曲調の異なるオリジナル2曲で、早くも心酔モードの会場に、鈴木がギターを両手に持って登場。一方は8弦ギターである。

6弦より音域が広く、多弦ギターのなかでは扱いやすい8弦ギター。鈴木は近年愛奏していて、ふくよかさと清澄さを併せ持つ音色で聴衆を魅了。例えば、武満徹の『波の盆』では、波のきらめきを思わせるタッピングやハーモニクスによる響きが、より輝かしく聞こえた。ブリッジサドルの長さや質など、パーツの材にもよるのだろうが、6弦ギターとはひと味違う。

ファリャの『三角帽子』のメドレーはデュオで。鈴木が懐の深いサウンドを発したと思えば、沖がテンションの高い音で応えるなど、喜劇的な曲の楽しさをコール&レスポンスで表情豊かに表現。場内はリラックスモードになり、α波が充満しているのを体感した。

一方、6弦のクラシックギターとフラメンコギターでは、同系色のサウンドによる軽やかなオーケストレーションを楽しめた。ボッケリーニ『ファンダンゴ』の特に高音域は、「双子のギターサウンド」と言いたくなるほど二人の音色が揃っていてビックリ!
ロドリーゴの『アランフェス協奏曲』は、スペイン内戦をきっかけに平和を願って作ったとされてきたが、実は亡くした実子への祈りなども込めた意味深い曲。旋律に哀愁が漂ったり、希望が感じられたり、深淵な響きを紡ぎ合っていた。
他に、フラメンコギターの巨匠、パコ・デ・ルシアの『二筋の川』では、ボディを叩く音も同質で「二人はお揃いのマレットのような指をしているのでは?」と思えたほどだ。

古来より存在するハーモニーのような風情
そして、いよいよ道山が登場。鈴木との出会いはデビューアルバムというから約四半世紀の付き合いになる。「デモを録ると言われてスタジオに出掛けたら、レコーディングになった」と鈴木。初顔合わせの沖からは「親が三味線好きで、実は子供の頃、2年くらい尺八を吹いていて……」などと思い出話が飛び出した。にこやかなトークの後、演奏スタート。

尺八が加わったことで、沖の『Fantasma2』は、まさに「幻想的」だった。吹き渡る風音や心の揺らぎを聴き手が感じ取り、幻想の果ての境地は……などと思い巡らせるうちに、ホールの空気を異次元へと誘(いざな)っていく。
道山は「考えるより、二人の演奏を感じていた方がうまく合う」と言っていたが、そのことは客席にも理屈抜きで伝わっていた。お互いごく自然に感性を引き出されることで、音楽はあるべき自然に還り、自然に歌っていた。とても新鮮な驚きだった。

鈴木の『汀の花』でも顕著だった。三浦海岸で亡くなった姫伝説をモチーフにした曲だという。木と竹が材のシンプルな楽器の響きが一体化して、波打ち際の悲話から目に映る自然まですっぽり包み込むかのようだった。例えば、尺八のむら息とギターのストロークが、古来より存在するハーモニーのような風情で空や海の果てまで広がっていくのだ。
ラストの、道山の『東風(こち)』も、アルバムに収録されているバンドとのコラボとは全く異なる自然な趣き。芽吹きの季節を感じて解き放たれた心が、春風に乗って空を自在に飛び、深山渓谷を見渡すかのよう。ギターと尺八、相性も演奏もブラボーだ!
3人とも満足気に「燃えましたね~!」。アンコールは、ピアソラの『オブリビオン』。スタンディングオベーションでお開きとなり、サイン会が和やかに行われた。
原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍「200DVD映像で聴くクラシック」「200CDクラシック音楽の聴き方上手」、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子
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