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#81:ミルクを抜いたカフェ・オーレの苦さを味わうための実験的音楽入門として~パット・メセニー・グループ『オフランプ』編(ジャズの“名盤”ってナンだ?)

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1982年の本作リリース当時、『愛のカフェ・オーレ』という“軟弱な”邦題(=アルバムタイトル)がついていたせいにするのは単なる言い訳に過ぎないのですが(ちなみに3曲目のタイトル『オー・レ』がミルク入りコーヒー、すなわち“カフェ・オーレ”を意味しています)、そんな先入観から、ボクのPMG(=パット・メセニー・グループ)体験は出遅れることになりました。

出遅れたとは言っても、リリース時期が近いパット・メセニー名義の『80/81』(1980年)を2枚組LP盤で購入していたので、PMGを毛嫌いしていたわけではないと思うのですが、その魅力にドップリとハマっていくのは1980年代も半ば以降、続々と諸作がCD化されてからの話。

今回は、最初に抱いたイメージから敬遠してしまった本作が、現在も“名盤”として輝き続ける理由を考察してみたいと思います。

Barcarole

アルバム概要

1981年に米ニューヨークのレコーディング・スタジオ“パワーステーション”で収録された作品です。

オリジナルはLP盤(A面3曲B面4曲の全7曲)でリリースされています。同曲数同曲順でカセットテープ版があり、CD化も同曲数同曲順です。

メンバーは、ギター/ギター・シンセ/シンクラヴィア・ギターがパット・メセニー、ピアノ/シンセサイザー/オルガン/シンクラヴィアがライル・メイズ、ベースがスティーヴ・ロドビー、ドラムスがダン・ゴットリーブ、パーカッション/ヴォイス/ビリンバウがナナ・ヴァスコンセロス。

収録曲は、全曲がパット・メセニーとライル・メイズの共作で、2曲にナナ・ヴァスコンセロスが加わっています。

“名盤”の理由

1990年代以降にボクが取材をするなかで、本作収録の『ついておいで』や『ジェームス』をカヴァーするミュージシャンのライヴに出逢うことが多々ありました。それはつまり、“スタンダード・ナンバー”が本作から生まれたことを意味しています。

それだけで本作を“名盤”であるとしても過言ではないわけですが、ポイントはもうひとつ。

主にポピュラー音楽シーンでは、1970年代になると生楽器を代替する道具として電子楽器が急速に発展・普及しました。

その一方で、電子楽器にしか出せない、(それまでの人類が)未体験の音を取り入れた作品づくりも活発になります。

耳慣れない新しい音を取り入れることとポピュラー音楽としてのメロディで惹きつけることは“水と油”のような関係で、PMGにとってもその両立はかなりハードルの高い創作活動であったと想像できます。

そのままでは混ざり合うことの難しい両者を見事に溶け合わせ、カヴァーしたいと思わせる楽曲たちを生み出したことこそ、本作が“名盤”である大きな理由になっていると思います。

いま聴くべきポイント

とは言いながら、ボクは『ついておいで』や『ジェームス』が特に好きな曲だというわけではありません。

だから、「名曲あっての名盤」とすることに、抵抗があるんですね。

改めて本作を聴き直してみると、オーヴァーチュアとしての『舟歌』があっての『ついておいで』であり、タイトル曲『オフランプ』があっての『ジェームス』であることが、ようやく“見えて”きました。

『舟歌(Barcarole)』はもともと南欧で船頭が口ずさむ労働歌だったものですが、メンデルスゾーンやショパン、チャイコフスキー、ラフマニノフといったクラシック音楽の作曲家たちがテーマとして取り上げ、作品を残すようになります。

そんな音楽史的なイメージを背景に漂わせながら、規則的なクリック音にナナ・ヴァスコンセロスのトーキングドラムが重なり、幻想的なシンセサイザーを背景に、ギター・シンセが鳴り響く……。

そう、これは船の汽笛が会話するようすを描いたファンタジーを音楽に落とし込もうとした実験的な作品で、だからポピュラリティやスムースジャズっぽさが希薄だったのだ、と。

そうであれば、『ついておいで』や『ジェームス』もポピュラー音楽の延長線上ではなく、前者はポスト・ボサノヴァ、後者は1970年代ポップスへのオマージュ(曲名は、グラミー賞を6回も受賞しているシンガーソングライターのジェームス・テイラーからインスピレーションを得たことを示していると言われています)として、いずれも(商業的な成功を目的としたのではなく)実験的な視点で取り組んだ成果だったと解釈できるはずです。

そして、核心となるのがタイトル曲。フリージャズのオリジネイターであるオーネット・コールマンからの影響を反映したとされるこの曲をアルバムのタイトル(=原題)にすることこそ、PMGが実験的であろうとした証左ではないでしょうか。

本作を爽やかで耳心地のいい音楽だと感じるのは、そういう“錯誤”を引き起こすべく彼らが周到に用意した実験的な数々の試みゆえだったと思うのです。

「ジャズの“名盤”ってナンだ?」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ/富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

文/ 富澤えいち

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
2026.03.18
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