
“歌のファースト・レディ”と呼ばれたエラ・フィッツジェラルドと、20世紀のジャズをポピュラー音楽の地位にまで高めた功労者のひとりであるルイ・アームストロングによる“デュエット”を収録した“決定版”とされるのが本作です。
澄んだ声質にダミ声を組み合わせるという無謀にも思える企画が、なぜ“名盤”になったのか。“ジャズならでは”とも言えるコラボレーションの“さじ加減”を、改めて聴き直してみましょう。
Tenderly
アルバム概要
1956年に米ロサンゼルスのスタジオでレコーディングされた作品です。
オリジナルはA面6曲B面5曲の全11曲を収録したLP盤でリリースされました。同曲数同曲順でCD化され、カセットテープ版もありました。
メンバーは、ヴォーカルがエラ・フィッツジェラルド、ヴォーカル/トランペットがルイ・アームストロング、ピアノがオスカー・ピーターソン、ギターがハーブ・エリス、ベースがレイ・ブラウン、ドラムスがバディ・リッチ。
収録曲はすべてジャズ・スタンダード・ナンバーのカヴァーです。
“名盤”の理由
“ポップスにおけるデュエット歌唱の頂点”とも激賞されるほどの評価を得たのは、ひとえにふたりが得意としていたアップテンポの軽快な、つまり“スウィンギーな”歌唱ではなく、シットリと歌い上げることで醸し出した“ジャズだけどわかりやすい”というムードによるのではないかと思っています。
さらに加えればそうしたムードは、オスカー・ピーターソンのトリオなくしては生み出せなかっただろう、とも。
いま聴くべきポイント
声質もスタイルも対照的なエラとルイが同じ歌をどのように歌ってまとめるかは、それぞれに“押したり引いたり”する必要があったはず。
もちろん、“押したり引いたり”した形跡は残さないのがプロなのでしょうが、そんなレヴェルを軽々と越えて、このふたりならではのコラボレーションの域に達してしまったからこその“名盤”と言わざるを得ないわけです。
その根底にあるのは、なんといってもお互いの“耳の良さ”なのではないかと気がついたのが、添付したYouTube音源『テンダリー』のラストでエラ・フィッツジェラルドがルイ・アームストロングの真似をしてダミ声で歌っている部分でのこと。
つまり、“自分がどう(巧く)歌うか”よりも、その曲のメロディと相手の声に“どうやって乗っていくか”を考え、それを体現できているからこそ、このふたりが“不世出”とされたのだった──と。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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