音のエネルギー
ビッグバンドや吹奏楽、オーケストラ。形はさまざまですが、合奏で生まれるパワーは音楽の醍醐味の一つだと思います。
ただ、その最大音量を冷静に数字で見ると…90dBを超えることは珍しくありません。これは電車のガード下や工事現場に近いレベルです。
演奏中にApple Watchが「音量が90デシベルです。このレベルの音に約30分さらされると聴覚が一時的に失われるおそれがあります」と恐ろしい警告画面を出してきたことがある人もいるでしょう。
「楽しい!」と盛り上がっている間に、耳は確実に負荷を受けているわけです。
耳はどうやって音を感じているのか?
耳は大きく分けて「外耳」「中耳」「内耳」の三つに分かれています。
* 外耳:耳たぶから鼓膜まで。音を集めて鼓膜に伝える。
* 中耳:鼓膜の振動を耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)が増幅して、内耳に伝える。
* 内耳:ここにある蝸牛(かぎゅう)が音のセンサー。蝸牛の中の「有毛細胞」が振動を感じ取り、電気信号に変えて脳に送る。
問題はこの「有毛細胞」。とても繊細で、鍛えたからといって強くなるようなものではなく、大音量が続くと倒れたり壊れたりしてしまいます。そして一度傷つくと再生しません。つまり、強い音にさらされ続けると、聴力がじわじわと削られていきます。
楽器の距離感も工夫のひとつ
広いコンサートホールの奥まで届くような大音量を、演奏者はステージ上で聴いています。部屋の隅まで冷やそうと強風にしたエアコンの真下に座っているような感じですね。
そこでまず僕が合奏の時に意識しているのは「楽器の距離感」です。
* 自分のトロンボーンのベルが前のサックス奏者の頭を狙わないようにする
* 後ろのトランペットのベルが自分の頭に近すぎるときは並びを調整してもらう
これは、人と話すときに顔が近すぎるとコミュニケーションがとりにくいのと同じ。
自分の後ろの人の音しか聞こえない状況ではアンサンブルもうまくいきません。
お互いの耳や体に負担をかけずに「音で会話する」ために、距離の工夫はとても大事だと思っています。
耳栓も選択肢の一つ
それでもどうしようもない時は耳栓をつけて演奏しています。
最近は演奏用の耳栓が色々とあって、ただ音を小さくするだけでなく、音質を保ちながら全体を均等に減衰してくれるものがあります。
僕が使っているのは、10dB、15dB、20dB、25dBと減衰量を選べるタイプ。
現場の音量や編成によって使い分けています。
最初は違和感がありましたが、慣れてしまえば「耳を守りながら音楽を楽しめる」心強いアイテムです。
海外の取り組みと、これから
海外のオーケストラでは、耳栓を配布したり、音が直接当たらないようにアクリル板を設置したり、ステージ上の音量を測定して労働環境として管理したりする例があると聞きます。
耳を守ることが「当たり前」として根付いてきています。
日本でも、学校の合奏室やコンサートホール、ライブハウスで同じような取り組みが広がったら嬉しいなと思っています。
YAMAHAさんからその辺の啓蒙活動をしてもらえたら…なんて、ここで勝手に期待を込めて書いてみました(笑)。
最後に
かつてサングラスといえば「西部警察の大門」や「あぶない刑事のタカとユージ」みたいなイメージでした。
でも今では、紫外線対策として老若男女が普通に身につけるものになっています。
耳栓も、同じように「自然な習慣」になっていいはずです。
耳を守ることは弱さではなく、音楽を長く楽しむための知恵。
音が聞こえなくなって大好きな音楽を楽しめなくならないように、ちょっとした工夫から始めていきたいですね。