とあるコンサート当日。
いつものようにウォームアップ用のマウスピースを吹きながら歩いて最寄駅まで到着し、改札を通ろうとした時にSuicaの入っているApple Watchを家に忘れたことに気づく。まだ会場入りの時間には余裕があったので、家に取りに帰ることにした。帰宅途中で肝心の楽器を持ってきてないことに気がつき、自分のアホさ加減に嫌気がさす。
自宅に着き、楽器を持って再び駅に着いた時、Apple Watchを忘れた事に気がついた。
と、このような僕ですが、どうにかこうにか奇跡的にトロンボーンの演奏をしながら暮らしています。
普段はビッグバンドやコンボでジャズを演奏したり、サンバやショーロといったブラジル音楽のバンドをやっています。また、アーティストのサポート演奏やTVCMなどの音楽を録音したりと色々なお仕事をさせてもらっています。
今回こちらで文章を書かせていただくことになりました。最後まで読んでいただけると幸いです。
子供の頃は全く音楽に関わってこなかったにも関わらず、中学校でなんとなく吹奏楽部に入り、たまたま吹き手のいなかったトロンボーンを担当することになってから、気づけば随分と長い間吹いてきました。
最初に吹いていたのは学校の備品でボロボロのYSL-254でした。あの楽器を見ると、腕が届かなくて気持ちで下のBを吹いていたことやスライドに指を挟んで血豆を作ったこと、教室で部活中に野球をしていて先輩に怒られたことを鮮明に思い出します。
その後、当時流行っていた細管でも太管でもない中細管のYSL-8440(ちなみにこの楽器は30年以上経った今も現役で使っています)を買ってもらって、学校の部活と夜の市民吹奏楽団を掛け持ちして音楽漬けの生活が始まります。インターネットがなかった時代だったので今より遥かに情報が少なく、ブラニミール・スローカーやミシェル・ベッケ、クリスチャン・リンドバーグ、オルケスタ・デ・ラ・ルスのいくつかのCDを繰り返し聞いていました。
雑誌の新譜紹介でジャケットを見て、街の楽器屋さんでCDを注文して数ヶ月後に届いたリンドバーグのオートバイ協奏曲を初めて聞いた時の衝撃は忘れられません。
吹奏楽部のない高校に通った3年間は合唱に明け暮れ、大学では吹奏楽部とジャズ研究会で活動。卒業後は一旦、看護師として病院に勤務するのですが、30歳の時に一念発起。上京して演奏の仕事をメインにするようになり、今に至ります。
紆余曲折ある音楽人生ですが、YAMAHAの楽器がいつでもそばにありました。
現在メインで使用しているのはYSL-891Zです。
2008年ごろニューヨークでWycliffe Gordon のレッスンを受ける機会があり、その時に彼が使っていたのがこの楽器のプロトタイプでした。少し吹かせてもらって一発で気に入り、発売してすぐ購入してから愛用しています。
細管としては少し太めのボアとベルで、ふくよかな音から鋭い音までイメージ通りにコントロールできるので、色々な音楽の表情を作り出せるところが気に入っています。コンボやビッグバンドでの使用がメインです。
中細管のYSL-8440はトランペット2本、トロンボーン1本、サックス4本などのラージアンサンブル編成の時によく使います。3rdトランペットのような役割やバリトンサックスとユニゾンで低音楽器としての役割を行き来するような音域の広い楽譜を演奏する時はやっぱりF管があったほうが便利ですし、細管より太めのボアから出る音が全体のアンサンブルによく馴染むがします。
太管のYSL-823GDはレコーディングでクラシカルな音色が求められる時に使用しています。
バストロンボーンのYBL-830はレコーディングで1人で何役も演奏する時に使用しています。
ということで、簡単な自己紹介と使用楽器の説明をさせてもらいました。各楽器色々な特徴があるのですが、同じYAMAHAという事で持ち替えもしやすく、自分の中にある音のイメージを表に出すのに最高の道具として助けてもらってます。
一時期は一つの楽器で全てのことをやろうと試行錯誤していたのですが、今の僕には合いませんでした。あまり難しく考えずに鉛筆とポールペンと筆ペンと毛筆を使い分ける気分で気軽に使い分けています。
YSL-891Z(細管)
YSL-8440(中細管) ※現在は生産完了
YSL-823GD(太管)
YBL-830(バストロンボーン) ※現在は生産完了
和田充弘