
「第一楽章を弾き始めるとき、最後の楽章をまるで配慮していない、なんてことないですか?」(本文より)。こんな言葉にドキッとする人もいるはず。すぐに音符を追うのではなく、まず作品を俯瞰することが肝要と説き、その方法をまとめたのが『音楽の見取り図 ~聴き方・弾き方が変わる 楽曲分析入門~』だ。
「日本は明治時代、西洋音楽の技術だけを輸入したため、音楽理論の教育を取り残してしまった。でも、聴く人に納得してもらえる演奏をするには理論の勉強が欠かせないのです」
そう語る著者の土田京子。大学で教えるかたわら、ヤマハ講師の養成にも携わった。その経験から音楽理論をきちんと教育することの重要性を痛感したという。「音楽の見取り図」とはどんなものだろう。
本書ではまず、曲の時代や作曲家の背景、曲全体の分量(小節数)、調性や速度の把握といった基本に触れ、続いてピアノ曲を例に大まかに曲を眺め、見取り図の描き方を実践。楽譜を台本に例えたり、音楽用語のもともとの意味をひもといたりしながら、読み手が迷走しそうな専門領域にはギリギリ踏み込まず、見取り図のためのエッセンスだけをつづる。この絶妙なラインはどこから生まれたのだろう。
「講師たちを教える仕事で磨かれましたね。着任してすぐに、即興や伴奏付けといった能力が、どれほどレッスン現場で要求されるかに直面しました。それはまさに私の専門分野。来週のレッスンをどうしようと困っている人が目の前にたくさんいる。その人たちを助けたい一心で、できる限りわかりやすく伝える方法を工夫し続けたんです」
レッスンでの結果は講師たちからすぐにフィードバックされ、自身もさらに「わかりやすく伝える術」をブラッシュアップしていった。
「ですから講師たちが書かせてくれたと言ってもいいでしょう。この本は、講師たちにささげる応援歌でもあるんです」
執筆にあたっては、アマチュアで活動する人たちが楽譜とどう向き合っているかを知るため、オーケストラや吹奏楽なども視察。そこから、まずはピアノ譜を入り口に、最終的にスコアに行き着く構成を練りあげた。ここに書かれている準備をして事前に曲を俯瞰したら、耳の想像力が上がり、演奏も聴き方も、もっと豊かなものになる。だから、音大生や音大を目指す人、ピアノや音楽の教師はもちろん、合唱や吹奏楽、オーケストラなどのアマチュア音楽家にも、一日も早く本書と出会ってほしい。必ず新しい気づきがあるはずだ。
本文の合間には、レッスンでの生徒とのリアルな会話も紹介。子どもの視点や効果的な言葉がけがわかり、大いに参考になる。カジュアルタッチの「音楽史コラム」も読み応え十分で楽しい。
■音楽の見取り図 ~聴き方・弾き方が変わる 楽曲分析入門~
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
料金:2,530円(税込)
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土田京子〔つちだ・きょうこ〕東京藝術大学作曲科卒業。トロント王立音楽院ピアノ科卒業。音楽研究グループ“ティータイム・トーク”、音楽教師の再教育塾「説き語り音楽塾」を主宰。全国各地で楽曲分析のクラスを設け、豊かな教師力の養成に全力を注いでいる。『和声法がさくさく理解できる本』『和声法がぐんぐん身につく本』『楽典がすいすい学べる本』『絶対!わかる 和声法100のコツ』(以上ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)ほか著書多数。
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