
エリザベート王妃国際音楽コンクールのピアノ部門で、日本人として歴代最高位となる第2位に輝き、世界中の注目を集めた久末航さん。受賞から半年後の2025年12月2日、サントリーホールで開催された凱旋リサイタルのライブ録音CDが、2026年4月22日にリリースされた。作品に真摯に向き合い紡ぎ出された味わい深い音楽、会場を埋め尽くした聴衆の感動、それらすべてが詰まったアルバムについて語っていただいた。
サントリーホールでの凱旋リサイタルは、自分の音楽人生にとって大きなマイルストーン
高校卒業後ヨーロッパに渡り、フライブルク、パリ、ベルリンで研鑽を積み、ARDミュンヘン国際音楽コンクール、ゲザ・アンダ国際ピアノコンクール入賞などで、すでにその実力は認められていたが、2025年5月、ベルギーのブリュッセルで開催されたエリザベート王妃国際音楽コンクール第2位という快挙により、国際舞台での活躍の地盤を固めた久末航さん。受賞後、ヨーロッパやアジア各地での入賞者ツアーを経て、12月2日、サントリーホールで開催された凱旋リサイタルには、多くの聴衆が詰めかけ、注目の新星ピアニストの知的で瑞々しい演奏に耳を傾けた。
「サントリーホールでのリサイタルは、自分の音楽人生にとって大きなマイルストーンでした。実はサントリーホールに足を踏み入れるのは、自分のリサイタルが初めてだったんです。錚々たる音楽家の方たちが名演を繰り広げてきたクラシックの殿堂で演奏するなんて夢のようで、ものすごくプレッシャーを感じていたんですが、実際に舞台に一歩足を踏み出した瞬間に、純粋にこの時間を楽しもうという前向きな気持ちになりました。お客さまも温かな雰囲気で、最初の一音から集中して聴いてくださっているのが伝わってきて、幸せな気持ちでのびのびと演奏することができました」
舞台で演奏するのが大好きで、その瞬間のインスピレーションや感性から生まれる音楽を大切にしたいという想いから、リサイタルのライブ録音をCDに残そうと考えた。
「作曲家がその曲に託したメッセージは何かを考え、入念に準備したうえで、舞台に上がったら、すべてを忘れて自由に音楽に向き合い、今この音楽が生まれていると感じられるような演奏をしたいと思っています。お客さまからいただいたエネルギーも含めて、一期一会の演奏をCDにすることができてうれしいです。多くの方に聴いていただければと思います」

多彩な作曲家の作品でピアノ音楽の魅力を探究するプログラム
凱旋リサイタルで久末さんが届けたのは、コンクールでも演奏した作品を含め、古典から近現代に至るまでのさまざまな作曲家がピアノという楽器から生み出した彩り鮮やかな作品の数々。前半のプログラムは、透明感のある音色が飛翔するラヴェル『高雅で感傷的なワルツ』で幕を開ける。
「パリで学んだ経験もあり、ラヴェルは好きな作曲家です。緻密な構成や和声の色彩感に惹かれます。デビューアルバムでは『夜のガスパール』を取り上げましたが、『高雅で感傷的なワルツ』にはまったく違う難しさがあって、長い間手を出しかねていました。音数の少ないシンプルな曲の中にウィーンのワルツのエッセンスが詰まっていて、脆くて壊れやすい繊細な音楽だと感じます」
続いてリスト『巡礼の年 - 第1年「スイス」』より第4曲「泉のほとりで」、第5曲「嵐」、第9曲「ジュネーヴの鐘」では、しなやかなピアニズムで抒情豊かな世界が描き出される。
「あまり演奏されない作品ですが、ちょっとマイナーな隠れた名曲にスポットライトをあてたいなという想いがいつもあるんです。ラヴェルとは異なる作品の世界をお楽しみいただければと思います」
前半のプログラムを締めくくるのは、お洒落でエレガントな魅力あふれるシューベルト/リスト編曲『ウィーンの夜会』より第6番。
「この曲は、当初のプログラムには入れていなかったのですが、ラヴェル『高雅で感傷的なワルツ』が、シューベルトのワルツをモティーフにした作品なので、そのつながりを意識して、オマージュという意味を込めました」
後半のプログラムは、切れ味のよい洗練されたリズム感が冴えるバルトーク『3つのブルレスク』で始まる。
「3曲のキャラクターがそれぞれはっきりしている8分前後のコンパクトな作品なので、スパイス的な位置づけでプログラムに入れました」
そして最後は、ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第23番「熱情」』。明晰な構成力で、ひたむきにベートーヴェンの魂に迫る演奏は、コンクールでも喝采を浴びた。
「10年くらい前からずっと一緒に歩み続けている作品です。ベートーヴェンってすごいなぁと思うのは、多くのピアニストに何千回、何万回と弾かれてきた曲でも、毎回新しい顔を見せてくれる。自分自身、何回弾いても違う景色が見えてきて、新たな難しさを感じます。和声の斬新さなど、当時のベートーヴェンがいかに革命的だったのかといつも感銘を受けます。32曲のソナタすべてが創造性に満ちていますが、その中でも『熱情』はひとつの大きな到達点だと思います。ベートーヴェンのソナタ全曲の演奏は、いつか登ってみたい大きな山ですね」
ファンにとってうれしいのは、ボーナストラックとしてアンコールの3曲も収録されていることだ。シベリウス『13の小品 第10曲「悲歌的に」』、リスト『超絶技巧練習曲 第12番「雪あらし」』、ブラームス『ワルツ集 第15番』の心に沁みる清々しい演奏、感動に包まれた聴衆の熱い拍手、聴き終えたときに、実際に会場で聴いたような幸福感を味わうことのできるアルバムに仕上がっている。
「2025年12月2日の時点で、自分が今一番聴いていただきたい曲を選んだプログラムです。サントリーホールの響きは本当に素晴らしく、ピアノも美しい音色で、贅沢な時間でした。それぞれの作品のエッセンスとコントラストを楽しんでいただければうれしいです」
■アルバム『ピアノ・リサイタル 2025 at サントリーホール』

発売元:Octavia Records
発売日:2026年4月22日
料金(税込):3,200円
詳細はこちら
■琳 Ⅲ 〜玉響 TAMAYURA〜
若林千春 作品展 2026 × 久末 航 ピアノ・リサイタル
11月6日(金)Hakuju Hall(東京)
11月8日(日)FIGARO Hall(滋賀)
■名古屋フィルハーモニー交響楽団
第550回定期演奏会〈地獄と煉獄を遍歴するドラマ〉
11月13日(金)愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知)
11月14日(土)愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知)
■久末 航 ピアノ・リサイタル
11月22日(日)ハイスタッフホール(香川)
11月27日(金)富山県高岡文化ホール(富山)
■《新世代の旗手─誠心なる音楽》
久末 航 ピアノ・リサイタル
12月6日(日)神奈川県立音楽堂(神奈川)
■ピアノトリオ「新世代の響き」
〜前田妃奈×佐藤晴真×久末航〜
12月12日(土)メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)劇場ホール(宮崎)
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