
青春スターとして鮮烈なデビューを飾って以来、俳優・歌手として半世紀以上にわたり第一線を走り続ける中村雅俊さん。ドラマ『俺たちの旅』放送50周年を記念したスペシャルコンサートやビルボードライブ、全国コンサートなど近年も精力的にステージに立ち続けています。数々の出会いと時代を歌に重ねてきた中村さんにとって、音楽とはどのような存在なのでしょうか。
Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?
ザ・ビートルズのファンなのですが、一曲挙げるとしたら『The Long And Winding Road』です。この曲には、忘れられない思い出があります。ロケでアラスカを訪れたとき、チャーターしたセスナ機が寒波の影響で整備も十分ではない小さな空港に足止めされ、命の危険すら感じるような状況に陥ったんです。その極限の時間、不思議なことに頭のなかで繰り返し流れていたのが『The Long And Winding Road』でした。この曲を聴くたびに浮かぶ情景は、毎回少しずつ違います。それでも、どこまでも続く空や海の景色だけはいつも変わりません。自分がスローモーションで空へ舞い上がっていくような不思議な浮遊感に包まれ、穏やかで美しい世界へと導いてくれる。60年以上聴き続けても、色あせることのない特別な一曲です。もっとも、メンバーのなかで一番好きなのはジョージ・ハリスン。とくに『While My Guitar Gently Weeps』は格別で、1976年ごろにはジョージの自宅に招かれたこともあります。当時は、それがちょっとした自慢でした(笑)。どちらの曲も、自身のコンサートで歌ったこともある大切な曲です。
Q2.中村さんにとって「音」や「音楽」とは?
もしかすると食べ物と同じくらい、あるいはそれ以上に生きていく上で欠かせないものかもしれません。人生には勇気や希望などさまざまな支えがありますが、振り返ってみるといつも一番近くにあったのは音楽でした。寂しいとき、悲しいとき、うれしいとき。音楽は変わらず寄り添い、そっと心を慰め、前へ進む力を与えてくれたように思います。歌手として長く活動してきた今感じるのは、コンサートでお客さんから返ってくる拍手や笑顔、言葉に励まされ、俺も大きなエネルギーをもらっているということ。自分が歌を届けるだけではなく、その反応によって自分も支えられている。そんなギブ・アンド・テイクのような関係が自然に生まれているのだと感じます。音楽の力を実感しますね。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?
大滝詠一さんです。あの方は音楽に翻弄されているように見えながらも、終わりのない創作を心から楽しんでいたのではないでしょうか。ひとつの作品が完成してもそれをゴールとは考えず、「もっとこうできる」「まだ面白くなる」と探求を続ける。曲だけならギター1本でも生み出すことはできますが、アレンジはまったく別の作業です。俺は音楽理論やアレンジの知識があるわけではないので、作曲けでなく、アレンジやサウンドづくりまで含めて作品全体を形にし、自ら歌い、ひとつの表現として完成させていた大滝さんをうらやましく思います。まさに、音楽と遊ぶことそのものを喜びにしていた「音遊人」という言葉にふさわしいイメージです。
Q4.楽器や音楽をやっていてよかったことは何ですか?
音楽や楽器がなかった人生を想像すると、「なんて寂しい世界だったんだろう」と思います。歌う場所や曲があり、演奏する楽器がある。それらが人生を豊かにし、たくさんの喜びを運んできてくれました。初めて手にした楽器はギターで、始めたのは高校時代。バスケットボール部の合宿に先輩がギターを持ってきてくれ、教えてもらったことがきっかけです。やがてコードを覚え、自分で曲もつくるようになりました。正直に言えば、「好きな子にいいところを見せたい」という下心もありました(笑)。でも、バスケットボールに打ち込んでいた高校生が自分の思いを曲にして表現する時間はとても新鮮で楽しい経験でした。歌手デビュー後は、ギターを弾きながら歌うことが中心でしたが、もっと音楽の幅を広げたいという思いからピアノの練習を始めました。その後、サックスにも挑戦。決して上手くはありませんが、必要なフレーズを徹底的に練習し、ステージに取り入れました。演奏できる楽器が増えるたびに、表現の引き出しが増え、届けられるものが広がる。そして、それをお客さんが喜んでくれる。音楽と楽器は、表現者としての可能性を切り拓いてくれたかけがえのない存在です。

中村雅俊〔なかむら・まさとし〕
宮城県女川出身。1973年慶應義塾大学在学中、文学座附属演劇研究所に入所。1974年、NTV『われら青春!』の主役に抜擢されデビュー。挿入歌『ふれあい』で歌手デビュー。今までに役者として連続テレビドラマの主演数は34本。歌手としてもコンスタントに曲を発表し、シングル55枚、アルバム42枚をリリース。2024年には、ベストアルバム『SONGS~Masatoshi Nakamura 50th Anniversary All Time Best~』を発売。また、デビューから毎年行う全国コンサートも1600回を超え、2026年は2月から「中村雅俊コンサート2026〜ドンマイ!Don’t Mind!~」ツアーを開催中。同年10月からは全国5公演「俺たちの旅 スペシャルコンサート」が始まる。
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