
メジャーデビューから10年。ピンクの髪と華やかなサウンドで音楽シーンを駆け抜けてきたサクソフォン奏者ユッコ・ミラーは、常に“もっと多くの人にジャズを届けたい”という一心で挑戦を続けている。ひとつの節目となる現在地と新作『Bloomin’』に込めた思いを聞いた。
全力で走り抜け、切り拓いてきた10年
2026年は、メジャーデビュー10周年のアニバーサリーイヤーとなるサクソフォン奏者のユッコ・ミラー。彼女にとってその時間は、計画どおりに積み上げたキャリアというよりは、全力で走った先で気づけばたどり着いていた場所に近いのかもしれない。
「たくさんの奇跡のようなことが起こり続けて、いろんなことを無我夢中でやっていたらあっという間に10年が経っていた。そんな印象です」
これまでに共演したアーティストの幅広い顔ぶれとジャンルを横断するコラボレーション、全国ツアーや大型フェス、アリーナクラスのステージでの演奏──その実績は目覚ましいが、彼女はそこにとどまろうとはしない。常に「次へどう広げるか」を考えてきた。その背景には、愛すべきサクソフォンやジャズに対する課題意識がある。
「サクソフォンの音楽やジャズを全人類に聴いてほしいと思っているんです。でも、どうかすると『好きな人しか聴かない音楽』になりやすいんですよね。それって、すごくもったいないなって」
だからこそ、J-POPのヒット曲をジャズアレンジしてYouTubeに投稿する。音楽番組に限らず、バラエティ番組にも出演する。間口は広く、入り口はどこにあってもいい。まずは存在を知ってもらうことが大切という発想だ。
「どんなきっかけでもいいから、私を入り口にしてサクソフォンやジャズに興味を持ってもらえたなら、すごく嬉しいことですね」
過去には、巨大なアスレチックを舞台にしたスポーツ系エンタメ番組「SASUKE」への出場経験もあるが、これもそういった考えの延長線上だった。残念ながら本番は途中リタイアとなりつつも“ピンク髪のサクソフォン奏者”という鮮烈な印象を残した。音楽の裾野を広げるためならフィールドを限定しない。その行動力と柔軟さを強みにして、10年という時間を積み重ねてきたのである。
“今の私”をそのまま封じ込めた最新作
そして2026年2月18日。満を持しての10周年記念アルバム『Bloomin’』をリリース。ただ、あえて“記念盤らしさ”は意識せず制作に取りかかった。
「たとえば、ゲストの方をお呼びして特別感を出すというよりは、メジャーデビューから10年経った今の私はこうです!ということを何よりも伝えたかったんです」
レコーディングは現在ツアーを共にしているメンバーと行われた。スタジオで音を出しながら意見を交わし、アレンジを練り上げる。その場で誕生した音を形にしていく、ミュージシャン同士の呼吸をそのまま閉じ込めるような作業だった。全10曲すべてがオリジナルという選択も、“今”を表現したいという姿勢が基本にある。
「音はその人の心を映すものだと思っているので、今の自分を表現するなら、全曲を自分で作りたかったんです」
制作の起点となるのは、サクソフォンを吹いている時間。まずメロディーが浮かんだら録音し、ピアノでコードを付け、譜面に起こして打ち込みでデモ音源を作る。それをメンバーへ共有し、ドラムのフィルやピアノの音色を固めていった。そんな新作の鍵を握るのが、新たに手にしたソプラノ・サクソフォン「YSS-475」だ。
「縁あって友人から譲り受けたヤマハの初期モデルで、少し吹かせてもらったときに『この音だ!』と思ったんです。実際に演奏してみると、私自身が楽器に誘われている感じがするんですよ。それについて行くとメロディーが自然と生まれてきました」
結果、収録曲の半数がソプラノ・サクソフォンでの演奏となった。『Snow Song』は清らかな音色から雪景色を思わせる。『SHIOSAI』では艶のある旋律に海の音を加えて昭和のテレビドラマのような情感をまとわせた。さらに『AKUJYO』では、江戸時代のきらびやかな花魁の世界を思わせる和の旋律を採用。ジャズの枠に収まらない物語性のあるアプローチも本作の魅力である。これまで、人前でソプラノ・サクソフォンを演奏したことはほぼなかったそうだが、今後はライブで披露される場面も見られるかもしれない。

友人から譲り受けた「YSS-475」(左)と、愛器「YAS-62」(右)。高校時代に初めて手にしたサクソフォンはソプラノだったという。初心者には演奏が難しいとされるが「全然です。嬉しい!ソプラノかわいい!って感じでした」と笑い、当時を振り返る。
一方で、アルト・サクソフォンは高校時代に購入して以来、愛用している「YAS-62」の初期モデル(第1世代/現行モデルは第4世代)が相棒。プロになると決め、毎日吹き続けた記憶が刻まれた大切な名器だ。本作のオープナーを飾る『Miracle Shine』はこの「YAS-62」に導かれた作品だ。ダンサブルな四つ打ちのリズムは、まさに“踊れる”一曲で、ライブの高揚感を思わせる。
そして、とくに印象的なのが本作のラストを締めくくる『My Prelude』だ。
「高校入学と同時にサックスと出会って、この楽器を極めたいと思ったんです。そのためには作曲ができなきゃならない、ジャズのアドリブにも対応できないといけないと、高校2年から音楽理論を学び始めました。その当時、初めて作った曲がこの『My Prelude』なんです」
譜面などは残っていない。けれど、メロディーもコードもしっかり覚えていた。イントロで聴こえるトイピアノは、彼女がピアノを始めた3歳のころの記憶と重なる音色で、自身が音楽と出会った原点を表すような一曲でもある。
「私の第一歩になった曲ですが、難しいことをしているわけでもないシンプルな曲で、発表するには自信がない面もあったのですけど、デビューから10年経って『背伸びしなくていいんだ。私がやりたいことを思い切りやればいいんだ』と思えたので、今作の最後を飾る曲として収録しました」
前奏曲という意味をもつ楽曲で締めくくられる『Bloomin’』は、10周年を祝うアルバムでありながら、これまでとこれからをより強く結び直す一枚になった。

自身で詞を付け、ボーカルを担当した『Hair Style』と『Anemone』も必聴。空気に溶けて広がるような、やわらかな歌声が印象的だ。
今を生きる。その積み重ねの先に
自らを「長期計画を立てないタイプ」だというユッコ・ミラー。
「今これをやりたい、実現させたい!ということを全力でやり続けた10年でした」
だが、目標がないわけではない。成し遂げたいことのひとつとして、グラミー賞という大きな夢も口にする。けれどそれは遠い未来の勲章というより、“日々の積み重ねの先に見えてくるもの”という感覚に近い。
「明日いのちが終わったとしても後悔しないくらい、毎日を一生懸命生きていたいんです」
アルバムタイトル『Bloomin’』には「今を咲き続ける」という想いが込められている。満開の一瞬ではなく、咲き続ける時間そのものに意味がある。10周年という節目はゴールでも通過点でもなく、“今の自分”を確かめるためのタイミングに過ぎないのだろう。
「最高の仲間と作った、10周年の私をそのまま映したアルバムです。ひとりでも多くの方に聴いていただけたなら幸せです」
今やりたいことを、全力で──そのシンプルな姿勢がユッコ・ミラーの10年を作り上げてきた。未来は決まっていない。だからこそ今、自分の心で鳴っている音を信じて、彼女は前へ進む。次の10年もまた、その音が新しい扉を開いていくはずだ。
ユッコ・ミラー10th Anniversary アルバム「Bloomin'」全曲ダイジェスト
「Miracle Shine」Official MV / ユッコ・ミラー
■アルバム『Bloomin’』

発売元:キングレコード
発売日:2026年2月18日
価格:3,500円(税込)
詳細はこちら
■YUCCO MILLER 10th Anniversary Live "Bloomin'"
日時:2026年7月24日(金)19:00開演(18:15開場)
会場:SHIBUYA PLEASURE PLEASURE(東京都渋谷区)
料金(全席指定・税込):8,000円 ※ドリンク代別
出演:ユッコ・ミラー(Sax)/平手裕紀(Key)/中村ヒロキ(B)/Dennis Lwabu(Ds)/一彩(Taiko)
詳細はこちら
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今月の音遊人:ユッコ・ミラーさん「音楽は人の心を映すもの。だからごまかすことはできません」
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