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マリンバへの限りない愛情で歴史を開拓してきた安倍圭子が、深い感動を呼ぶ音楽で聴き手の心に迫る

安倍圭子

称賛を意味する「レジェンド」(伝説。転じて「伝説を生み出す者」)という肩書きは、昨今やや軽々しく使われているような気もするのだが、誰もがそう認めざるを得ない現役の音楽家もいる。1950年代より活動し、日本におけるマリンバという楽器の歴史に大きな足跡を残してきた安倍圭子は、まさにそう呼ぶべき存在だろう。

当初は木琴を演奏していたという安倍だが、楽器の音に魅せられてマリンバへ転向。最初はクラシックの名曲を編曲・演奏したり、ポピュラー音楽の分野で演奏活動を行っていた。NHKの人気番組『きょうの料理』の放送開始(1957年)にあたり、冨田勲作曲のテーマ音楽を奏でていた演奏者の一人でもある。

「マリンバは民族楽器またはポピュラー音楽の楽器としてステイタスを確立していましたけれど、私はクラシックの楽器として価値を高めたいと思ったのです。そこで、いろいろな作曲家の方にオリジナル作品を委嘱し、新作初演によるリサイタルを1968年に行いました。徐々に国内外で活動が認められる中、各地で演奏会を行い、同時にその地の音楽大学などでマリンバを教えながら種を蒔いてきたのです。でも私は常に、強制的に自分のスタイルを押しつけることをせず、どこの国へ行っても『皆さんの国で、それぞれの新しいマリンバの文化や音楽を創造してください。マリンビスト(マリンバ奏者)のスター音楽家を生み出してください』とメッセージしています。地道な活動でしたが、各国に若い世代のマリンビストが育ち、ようやく花が開いてきたと感じています」

今ではマリンバのために書かれた作品も多数あり、世界中の作曲家たちが名作を発表している。それでも安倍のために書かれ、マリンビストのスタンダードになっている作品(三木稔作曲の『マリンバ・スピリチュアル』、伊福部昭作曲の『ラウダ・コンチェルタータ』など)は輝きを失っておらず、世界中のマリンビストがレパートリーに入れているのだ。

加えて現在は、安倍自身の手による作品も80曲を超えるほどあり、コンサートでもプログラムのメインとなっている。もちろん門下生たちも演奏しており、楽譜が販売されている曲も多い。

「最近は中学生や高校生たちが、アンサンブルコンテストなどで演奏してくれているという嬉しいお話を聞きました。でも私自身は、自分が作曲家だという意識をもっていません。孤独な気分になったときや悲しみをおぼえたときなど、自然にメロディが浮かんできて、マリンバを演奏していると曲になっていくというだけですから。心で感じたことを楽器に伝えて、楽器がそれに反応してくれているのかもしれませんね。マリンバは音の波形がとてもきれいなのですが、悲しみや葛藤を表現したいために、私が『おじゃま虫』と呼んでいるちょっとおかしな音を入れると、不思議なことに気持ちよく鳴ってくれるのです」

さらに特筆すべきは、マリンバの楽器開発にも長く携わってきたことだ。「いい音楽を生み出すには、曲や演奏者の力をすべて表現でき、しかも演奏者にパワーや試練を与えるくらいの素晴らしい楽器が必要」と語る安倍は、およそ40年間、ヤマハとのパートナーシップによって楽器の開発に取り組んできた。

「私はマリンバを打楽器のひとつではなく、独立した個性をもつ楽器だと思っています。理想を挙げるなら、ピアノのような美しい音や、パイプオルガンのような深い響きを奏でる楽器でしょうし、そこから聴き手の心に迫ってくるような音楽が生まれるのです。長く活動してきましたが、それでもマリンバはまだまだマイナーな存在ですし、さらに深めていける楽器だと感じています。孫弟子にあたるマリンビストも増えてきましたが、80歳を過ぎた私に、まだ国内外から演奏やレッスンのオファーがあるということは、きっと『マリンバの心』のようなものを多くの人が欲しているのでしょう。2018年3月に多くの門下生や音楽仲間たちが集まる『傘寿記念コンサート』が行われますけれど、私は自分のリサイタルをするというより、次世代に希望を託すような気持ちで音楽を奏でたいと思っているのです」

聴き手がマリンバという楽器の存在を忘れ、音楽によって一生忘れないほどの感動を覚えるようになって欲しいという。そうしたマリンビストがさらに増えることで、安倍の偉業がさらに輝きを増すのだろう。聴き手もまた華麗な演奏テクニックに驚嘆するだけではなく、一音の深みを味わうような気持ちで接するべきなのかもしれない。

■安倍圭子 傘寿記念演奏会

日時:3月22日(木)19:00開演(18:15開場)
会場:東京文化会館 大ホール(東京都台東区上野公園5-45)
出演:安倍圭子(マリンバ)、井上道義(指揮)、安倍圭子記念オーケストラ[コンサートマスター:藤原浜雄]ほか
料金:S席6,000円、A席5,000円、B席4,000円、C席3,000円(税込/全指定席)
問い合わせ:03-3425-0087(ジーベック音楽出版)

 

文/ オヤマダアツシ
2018.02.28
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