第9回演奏会 混声合唱団 コーロ・フォレスタ
みなさま、こんにちは。
オルガンと人の声はとても親和性があるのをご存知でしょうか。そのため、オルガンが演奏に加わる合唱曲がこれまでたくさん作曲されてきました。
去る、2019年9月6日に東京都内で混声合唱団コーロ・フォレスタ合唱団の第9回定期演奏会が開催されました。このコンサートでバイカウントクラシックオルガンUnico 400をご使用いただきました。
混声合唱団 コーロ・フォレスタ
2009年に京浜地区(大田区、品川区、川崎市、横浜市)を拠点とする「混声合唱団コーロ・フォレスタ」誕生。
神奈川県出身で故郷での音楽活動に関心をしめされた指揮者の飯森 範親氏を音楽監督として迎え、指導いただいている。
宗教合唱曲も多く歌い2019年は創立10周年になる。
コンサート当日、合唱と管弦楽の指揮をされた指揮者の飯森 範親さんとオルガニストの中田 恵子さんに「オルガンと合唱」というテーマでインタビューをする機会をいただきました。
インタビュー実施日:2019年9月6日(金)
場所:大井町 きゅりあん大ホール
指揮者の飯森 範親さん
ゲネプロ終了後に指揮者台上での飯森 範親さん
Q1. 飯森先生は、オーケストラとの共演が多いと思いますが、合唱の演奏も度々、指揮されると伺いました。オルガンと合唱についてお話をいただけますでしょうか。
A1. 実は14~15年前から合唱の作品、宗教音楽をよく取り上げており、中でもモーツァルトの合唱作品はほぼ全てを演奏していますが、オルガンが入っていることが多いです。オルガンが入る意味は弦楽器奏者がたくさん揃えられない中、オルガンが入ることでオーケストラの色合いを豊かにする役割があると思います。
Q2. 合唱曲でオルガンがあるときに、気をつけていらっしゃることはありますか。人の声とオルガンの親和性などいかがでしょうか。
A2. 合唱とオルガンの柔らかい響き、調和を常に考えています。オルガンの響きの中から、歌詞の意味合いが心に響くように心がけています。オルガンは歌詞の言葉を届けるのに、一役も二役もサポートする楽器だと思います。
Q3. 本日、演奏されたバッハの「ト長調ミサ曲」とデュルフレの「レクエイム」の魅力についてお聞かせいただけますでしょうか。オルガンの聴かせどころなどあれば教えていただけますでしょうか。
A3. バッハの「ト長調ミサ曲」は全体的に、聴くものにラテン語で語りかけるような作品になっていますが、仮にラテン語が分からなくても何か感じ取れる作品となっているのがバッハの偉大なところではないでしょうか。
デュルフレのレクイエムは最後の楽園にて(イン・パラディスム)のシーンが出てくる、心が浄化され救われるレクイエムです。仮にこのシーンが付いていなかったとしても、全体を通してグレゴリオ聖歌の旋律(旋法)の独特なメロディーが聴くものの心に響きます。美しいハーモニー、そしてドラマティックな展開が特徴であるデュルフレのレクイエムはフォーレと同様、もっと演奏されてもよいと思うほど素晴らしい作品です。オルガンが無くては成り立たない作品ですので、今回使用したバイカウントクラシックオルガンUnico 400の様々な音色感によって、とても充実した、また助けられた演奏会になったと思います。
Q4. 本日、ご利用いただいたオルガンは、イタリアから輸入しているバイカウント社のクラシックオルガン「Unico 400」。電子で一音一音、パイプの音色を再現しており、主にパイプオルガンのないホールなどでご利用いただいております。いかかでしたでしょうか。
A4. クラシックオルガンはソロ演奏でも魅力を出せるし、オーケストラと混ぜることもできる音色です。ホールの響きや演奏曲にあわせてスピーカーの接続や配置などを工夫して、眼をつぶればそこに大きなパイプオルガンがあるようなイメージをつくることも可能だと思います。さらなるポテンシャルがあると思います。
飯森 範親 Norichika Iimori (Conductor)
桐朋学園大学指揮科卒業。ベルリンとミュンヘンで研鑽を積み、94年から東京交響楽団の専属指揮者、モスクワ放送交響楽団特別客演指揮者、広島交響楽団正指揮者などを歴任。96年の東京交響楽団ヨーロッパツアーでは「今後、イイモリの名が世界で注目されるであろう」と絶賛された。03年、NHK交響楽団定期演奏会にマーラーの交響曲第1番でデビューを飾る。06年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
海外ではフランクフルト放響、ケルン放響、チェコ・フィル、プラハ響などに客演を重ねる。01年よりドイツ・ヴュルテンベルク・フィルの音楽総監督(GMD)に就任し、ベートーヴェンの交響曲全集を録音。日本ツアーも成功に導いた。
現在、山形交響楽団音楽監督(07年から)、東京交響楽団正指揮者、いずみシンフォニエッタ大阪常任指揮者、ヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者。2014年シーズンから日本センチュリー交響楽団首席指揮者、2019年シーズンより山形交響楽団芸術総監督に就任。
オフィシャル・ホームページ
オルガニストの中田 恵子さん
ゲネプロ終了後 中田 恵子さんとUnico 400
Q1. 中田さんは、オルガニストとしてご活躍されていらっしゃいますが、合唱の伴奏をされることもおありと伺いました。まずオルガンと合唱についてお話をいただけますでしょうか。
A1. 普段オルガニストは一人きりで演奏する事が多いのですが、今回のようにオーケストラとご一緒する事もあります。オルガンが編成に入っているオーケストラの曲ももちろん ありますが、最もオルガンが入っている可能性が高いジャンルと言えば、合唱を伴う宗教曲。
合唱とオルガンの関係は密接です。オルガンは中世の時代からキリスト教において賛美を支える存在でした。空気をパイプに吹き込んで音を出すオルガンの原理は人間が歌を歌うのと同じような仕組みと言えるでしょう。減衰しない持続するその音は人の声による賛美を支えるのに最適な楽器だったのだと思います。
歌と共にオルガンを鳴らす時、歌を支えると同時に、オルガンがその声と一体化するように弾きたいと思っています。オルガンの音と共に合唱がワーっと重なってくると、弾きながらこちらもアドレナリンが出て盛り上がります!
Q2. パイプオルガンは音量の調整が難しく設置してある場所によっては、アンサンブルする楽器や歌の方と発音のタイムラグがあると伺いましたが、合唱の伴奏時に気をつけていらっしゃることはありますか。人の声とオルガンの親和性などいかがでしょうか。
A2. 例えばホールの舞台上部に設置されているパイプオルガンを合唱と共に弾く時には、舞台上のオーケストラや合唱のみなさんと物理的にはタイムラグが生まれます。でもそれは、例えば教会の礼拝で弾く時も同じで、私がオルガニストをしている教会のオルガンはバルコニー上にあり、会衆の皆さんより高い場所に設置されています。向きも説教台に対してオルガニストだけは後ろ向き。注意しているのは、階下の会衆の歌が聞こえてくるタイミングに引っ張られて遅くならず、賛美をリードしていく事。常に身体とは別に耳を会衆席に持っていく感覚を大切にしています。階下の響きを想像しながら弾く、ということですね。コンサートホールの演奏会で弾かせて頂くときも、同じような感覚を使い、タイムラグが無いよう注意しています。
Q3. 本日、演奏されたバッハの「ト長調ミサ曲」とデュルフレの「レクエイム」の魅力についてお聞かせいただけますでしょうか。オルガンの聴かせどころなどあれば教えていただけますでしょうか。
A3. ミサ曲ト長調(BWV236)は、ライプツィヒ時代の複数の教会カンタータの諸楽章を転用してまとめられた作品です。音にはほぼ変更なく、歌詞だけがそれぞれミサの通常文に変えられています。バッハの時代、オルガンはオーケストラの中で主に通奏低音の役割を担っていました。一般に楽譜上では低音部の旋律が示され、奏者はそれに和音構成の数字を振り(作曲家自身が書いている場合も多い)、それを見ながら適切な和音や、時によっては相応しいメロディを即興的に演奏します。編成が小さいアリアなどではオルガンの音がよく聞こえたりもしますが、合唱とオーケストラも入ったトゥッティ(tutti)では、オルガンは全体の声部をなぞるように和声を弾いて音楽を支えているので、オルガンが聞こえるということは少ないと思います。
作曲家でありオルガニストであったバッハは、素晴らしい通奏低音の名手だっただろうと想像します。一方、デュリュフレは近現代に活躍した作曲家・オルガニストです。この時代にはもう前述した即興的なオルガンの役割はなく、レクイエムの中ではオルガンパートが緻密に作曲され、ソロパートもあったりと、合唱やオーケストラと互角に美しいアンサンブルを奏でます。デュリュフレのレクイエムの美しさは、何と言っても和声だと思います。グレゴリオ聖歌をもとにした、たゆたうようなメロディーに、デュリュフレ独特の洗練されたフランス和声が融合し、えも言われぬ美しさを生み出しています。傑出したオルガニストでもあったデュリュフレは、オルガンを効果的に使うことに長けており、オルガンの魅力がオーケストラと合唱の中で存分に表出している作品だとも感じます。
Q4. 本日、ご利用いただいたオルガンは、イタリアから輸入しているバイカウント社のクラシックオルガン「Unico 400」。電子で一音一音、パイプの音色を再現しており、主にパイプオルガンのないホールなどでご活用いただいております。今回は、オルガン専用スピーカー4台とサブウーファー1台を使用しました。低音域(32フィート)の音色などいかがでしたか。
A4. 演奏会にいらしてくださったお客様から「本物のパイプオルガンのように聴こえた!」という嬉しい感想をいただきました。私が今回、とくに使いやすいと感じたのは、レジストレーションを組む際にオルガン全体の音色を「フランス・ロマンティック」に変えて、組むことができたという点です。オルガンの音色は時代や国によってその特徴が異なるので、曲によって一台のオルガンで様式を変えて音作りができるのは電子オルガンの強みだなと感じました。飯森先生ともご相談しつつ音色選びを熟考したこと、またオルガンのスピーカー配置を工夫して頂き、聴こえ方に立体感が出たことにより本物の響きに近づけたのではないかと思います。
Q5. 最後に今後力を入れて行きたい活動やご予定などお聞かせいただけますでしょうか。
A5. 11月3日(日)に神奈川県民ホールにてリサイタルを予定しております。この夏にキングインターナショナルより「Joy of Bach」というCDをリリースさせて頂きましたが、その発売を記念したコンサートです。パイプオルガンは日本において身近な楽器とは言えないと思うのですが、難しい理屈は抜きに、まずはオルガン音楽を純粋に楽しんで欲しい!と思って制作したCDです。大好きな作曲家バッハの、私自身が弾いていて喜びを感じる曲ばかりを集めています。11月3日のリサイタルも同じコンセプトで、やはりオルガンを気楽に楽しんでいただけることを意識してプログラムを組みました。決して「初心者の方向け」に限ってのコンサートと言うことではございません。多くの方に楽しんでいただけると信じています。CDに収録されている曲も多く演奏いたします。是非みなさま、お出かけください!
CD情報はこちら
中田 恵子 NAKATA KEIKO
東京女子大学文理学部社会学科卒業後、東京藝術大学音楽学部器楽科オルガン専攻卒業。同大学院音楽研究科修士課程を卒業時、修士論文ではJ.S.バッハ《トッカータ ハ長調》(BWV564)をめぐる演奏解釈を論じ、日本オルガニスト協会年報誌JAPAN ORGANIST 第38巻に掲載される。その後渡仏。パリ地方音楽院で研鑽をつみ、審査員満場一致の最優秀の成績で演奏家課程を修了。
フランスのビアリッツにて行なわれた第11回アンドレ・マルシャル国際オルガンコンクールにて優勝。併せて優れた現代曲解釈としてGiuseppe Englert賞を受賞。帰国後はヨーロッパ、ロシアでの演奏ツアーなど、国内外で幅広い演奏活動を行う。2016年~2019年3月まで東京芸術大学教育研究助手を務め、現在、(一財)キリスト教音楽院講師、国際キリスト教団代々木教会パイプオルガンクラス講師、玉川聖学院オルガニスト、日本基督教団鎌倉雪ノ下教会オルガニスト。(一社)日本オルガニスト協会会員、日本オルガン研究会会員。2019年7月、キングインターナショナルより、デビューCD「Joy of Bach」をリリース。
オフィシャル・ホームページ
本日は、お2人ともお忙しい中インタビューにご協力をいただき、心より感謝申しあげます。
今後益々のご活躍を楽しみにしております。
インタビューを終えて
インタビュー後、バッハのミサ曲ト長調とデュリュフレのレクエイムを拝聴しました。ミサ曲はオルガンの音色で低音を支えられ混声合唱の美しいハーモニーを聴くことができました。
また飯森さんと中田さんがお薦めされているデュリュフレのレクエイムは、オルガンの多彩な音色が使われ、魂が浄化されるような美しい旋律が多数ありました。
改めてオルガンの素晴らしさを感じる貴重な夜になりました。みなさんもぜひ聴いてみませんか?